地中海気候で空気が乾燥しているイタリアでは、目付けが軽く発色のいいスーツが仕立てられる。まるでカーディガンのようにカラダを包み込むシルエットは、この生地の特徴から生まれてくるものだ。スーツをファッション文化として高めてきたイタリアには、大きく分けて3つのスタイルがある。
大量の既製品(プレタポルテ)を生産する「ミラノ」、オーダーメイド(ス ミズーラ)の「ナポリ」。そして伝統を重んじる「クラシコイタリア」。
とくに既製品を扱うミラノでは、伝統や安定を求めるブリティッシュスタイルとは異なり、歴史を重ねていくうえで、なんども新しいデザインが生まれ、それに伴う新しい素材や技術が養われてきた。その発展の陰には、1910年に創業された「エルメネジルド ゼニア」の存在が大きく関与している。
「エルメネジルド ゼニア」は、企画、生産、販売まで、すべての工程を自社で手がける。それは紡績や染色といった生地作りから始まるもので、既製品のスーツを仕立てるうえで、いわゆる下請けを介さないメーカーは、イタリアでも稀有な存在だといえる。
アルプス近郊の街、トリヴェロの自社工場には、オーストラリア産、ニュージーランド産など、世界中の産地からゼニア用に選りすぐられた高級な原毛だけが集められる。この贅沢な買い付けこそが、ゼニアをゼニアたらしめる要因となっている。
原毛をさらに厳選し、紡績や染色などを施してから生地に織り上げる。仕上げに生地表面の繊維をスチームで整えることで、手触りのよい美しい光沢を持つ生地が完成する。こうした工程および品質管理は、自社工場を持つ同社ならではのものだ。
「いい素材は、いいデザインを求める」を企業理念とする「エルメネジルド ゼニア」では、自社製の生地を使用した既製服の企画・生産に加え、着る人それぞれの体型に合わせたパターンオーダー「ス ミズーラ」も手がけている。そこにイタリア伝統のクラシコテイストを加え、コレクションラインと同様に代表する商品ラインナップに仕立てている。
プレタ、ス ミズーラ、クラシコ。スーツの本場イタリアにおいて、このすべてを兼ね備える「エルメネジルド ゼニア」の歴史こそが、伝統となり、スタンダードとなってきたといっても過言ではない。
だからこそゼニアは、「スーツの王様」と呼ぶにふさわしいブランドといえるのだ。
個性はみずからの感性で選ぶもの
ゼニアでは、織り方との組み合わせによって、さまざまな生地が作られている。アルプス山脈の麓ビエラ地方に湧く軟水は、これらの自然な柔らかさや風合いを最大限に引き出し、さらに耐久性を持たせることに適している。
同じ柄のものでも、グレー系、ネイビー系などの色別に加えて、濃淡のトーン別に展開するため、毎シーズン登場する生地は、驚くほどの数になる。そのなかから、既製品用とオーダー用生地を厳選するため、より深みのある個性的なスーツが出来上がってくることになる。
ゼニアには、ニーズやシチュエーション、そして目的に合わせて選べるだけの豊富な生地ラインナップが揃う。