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歌を学習する鳴禽類の一種、キンカチョウのオス。体長10センチ、体重12グラム。頭部を冷やすと歌が遅くなり、温めると速くなることがわかっている。(Photo by Getty Images)

そもそも時間はどこにあるのだろう。私たちが時間感覚を持つことは明らかだ。しかし時間感覚は、視覚であれば目、聴覚であれば耳、嗅覚であれば鼻のように、その感覚を受け取るための専門器官が存在しない。それでも人間は、時の流れを感じている。人間が感じる得る時間差は秒から数年まで、非常に幅広い。年であれば、季節の移り変わりが手がかりになる。日であれば、外の明るさや人々の行動、自分のおなかの具合が手がかりになる。秒単位であれば、心の中でおおざっぱではあるがカウントすることができる。

人間の脳の中には平均24.2時間周期で活動が変わる部位がある。だから、何の手がかりもないところで数日暮らすと、起きる時間はだんだん遅くなる。夏休みの大学生など、社会的強制の一切ないところで過ごすと少しずつ夜型になるのは、これが理由であろうか。通常の社会生活をしていると、24.2時間周期を作る脳部位は、毎日リセットされ、24時間が1日となる。

私たちの社会生活では他者とタイミングを合わせた行動が必要になる。だから、機械としての時計が不可欠である。機械としての時計が計測しているものが時間だと定義できるが、その定義がそもそもなぜできたのかと言うと、私たちが時間を感じるからだ。もとに戻ってしまったが、なぜ私たちは時間を感じることができるのだろう。

秒単位であれば、心の中で数を数えればよいのは先述のとおりだが、訓練すれば数を数えないでも数秒から数十秒であればおおむね正確に時間の経過を判断できる。1965年に朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンは、訓練の結果、正確に10秒の経過を計測することができるようになったと随筆集『ご冗談でしょうファインマンさん』の中で述べている。階段を駆け上っても、落ち着いていても、暑くても寒くても、この値が大きくずれることはないと言う。このことからファインマンは、時間感覚は細胞の代謝速度とは関係のない仕組みによるのではないか、と考えている。

現在では人間の持つ時間感覚の由来を説明する仮説がいくつかある。大脳皮質には周期的に活動する神経細胞群がある。これらの細胞群は、さまざまな周期を持つ。2つの音が同時に鳴るとうなりを生じるように、いくつかの細胞群が異なる周期で活動すれば、活動のうなりが生じる。そのうなりを数えれば、大まかな時間経過がわかるのではないか、という仮説である。この場合、代謝速度に依存して時間感覚が変わりそうだ。とはいえ、人間の脳の温度を上げたり下げたりする実験は危険が伴う。

ではどうするか。小鳥のさえずりには、種によってほぼ一定の、歌のようなリズムがある。小鳥の脳は小さいし、歌のリズムを制御している部位は頭のてっぺんにあり、一立方ミリの半分程度しかないから、これを冷やしたり温めたりすることができそうである。マサチューセッツ工科大学の研究グループがこの実験をやってみた。キンカチョウという小鳥の頭のてっぺんにペルチェ素子を貼り付けて、歌のリズムを制御している部位を温めたり冷やしたりした。5度温めると歌は10%縮み、5度冷やすと10%伸びた。この実験は、時間感覚ではなく、運動時間の研究であるが、少なくともこのような行動は、温度によって伸び縮みすることがわかった。

このような実験から考えられるのは、時間感覚とは神経細胞の活動も含めた広い意味での運動から生じるのではないか、ということだ。もし何も起こらなければ、時間は流れないだろう。ビッグバン以前の宇宙は定義できないが、そこには時間はないはずだ。私たちも、生まれる前と死んだ後には主観的時間はない。真に熟睡してしまうと、時間経過はわからなくなる。これは、私たちの脳内での出来事が少ないからであろう。逆に、新たな体験は、時間感覚を豊かにする。個人的にも、大学時代の4年間とそれに続く米国留学の6年間は、その後の25年よりずっと長かった気がする。

ジャネーの法則というのがある。主観的時間は、身体年齢の逆数に比例するという。年を取ったから時間が経つのが早いとぼやくのはなんだか格好悪いが、説得力はある。ジャネーの法則の反例となるように、新たな体験を積み重ねていたいものだ。

岡ノ谷一夫◎東京大学大学院総合文化研究科教授。心理学の生物学的な研究を進めている。趣味でルネサンス時代の楽器リュートとビウエラを弾く。著書に『「つながり」の進化生物学』(朝日出版社)など。

文=岡ノ谷一夫

 

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