昨秋、日本に上陸したことでも話題の米オンライン動画配信サービス「ネットフリックス」。同社は吉本興業と組んで、芥川賞受賞作品『火花』の制作に乗り出すなど、コンテンツ制作で話題を振りまいているが、創業当初は郵送DVDレンタル会社だった。
ところが2007年、同社は現在の動画配信サービスに移行。競合の大手レンタルビデオチェーン「ブロックバスター」に迫る勢いで急成長していたにもかかわらず、路線を変えた。同社はなぜ、こうも劇的にビジネスモデルを変えることができたのだろうか? 答えは、「人」だ。
今日のネットフリックスの成功を語る上で、欠かせないものがある。「ネットフリックス・カルチャーデック(NCD)」と呼ばれる、120ページ以上にわたるプレゼンテーション資料だ。
「シリコンバレーで生まれた最も重要な文書」と、フェイスブックのシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)に言わしめたこのスライドからは、同社の企業文化と組織のあり方がわかる。
NCDには主に、ネットフリックスの社員規定や行動規範が書かれている。例えば、「社員は勤務時間ではなく、結果で評価される」「休暇に関する規定がないので、有給休暇をいくらでも取ることができる」「経費に関しても社員の判断を尊重する」などといったものだ。
戦略を担う人材をどう集めるか?
コスト管理が叫ばれる世にあって、やや浮世離れしているように思えるが、そこには確かな戦略がある。じつは、NCDにはこのようなスライドも。
「市場は、新しいテクノロジーや競合、ビジネスモデルの台頭により変わる。しかし、既存の業務を効率良くこなすことが社員の仕事の中心になり、評価もそれに基づくようになると、企業(社員)の市場への適応は遅れてしまいがちだ」
確かに、ネットフリックスのリード・ヘイスティングスCEOをはじめとする経営陣は、インターネットやモバイル端末の普及による動画配信の時代を予見していた。テクノロジーの進歩を見据えつつ、競合の経営戦略も的確に分析できていたからこそ、動画配信サービスの旗手になれたのだろう。実際、時流を見誤ったブロックバスターは、経営破綻に追い込まれている。
しかし、そうしたネットフリックスが戦略の遂行に必要な「人材」を揃えていた点を見逃してはいけない。南カリフォルニア大学のエドワード・ローラー教授は、「多様な人材を揃え、管理する人事体制がデジタルへの移行を可能にした」と指摘する。「ネットフリックスは、中核事業をシフトするにあたって、従来の社員とはまったく別のスキルを持つ社員、そして、彼らを束ねるための新しい人事マネジメントが必要だったのです」