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金融の善悪、不穏について執筆

Pres Panayotov / Shutterstock.com

アップルは、2013年に史上最大規模となる170億ドルの社債を発行し、得た資金を株主還元プログラムに充当した。当時1000億ドル規模だった株主還元プログラムは、現在2000億ドルに倍増され、総額1530億ドルが自社株買いと配当金を通じて執行されている。

現在、アップルは新たに社債を発行して自社株買いの実施を計画しているが、ティム・クックCEOは過去に割高な価格で自社株買いを行ったことに対して一部の経済紙から批判を浴びている。

SEC(米国証券取引委員会)への届け出によると、今回の起債は9本立てで、2年から30年の固定利付債と変動利付債から成るという。引受幹事はゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ、ドイツ銀行、JPモルガン・チェースが務める。起債規模はまだ明らかにされていないが、長期借入金530億ドルに対してキャッシュ(現金、現金相当物、短期有価証券、長期有価証券を合計)が2150億ドルという強固なバランスシートの状況を考慮すれば、過去最高規模になる可能性が高い。

アップルの自社株買いに対しては賛否両論がある。2013年に開始した際の取得単価は現在の株価水準を大幅に下回っており、株主にとって大きなメリットがあった。しかし、昨年7月に実施した60億ドル規模の加速型自社株買い(ASR)は取得単価が124ドル以上、昨年2月に実施した90億ドル規模のASRは取得単価が110ドル以上で、いずれも現在の株価水準の96ドル以下を大きく上回っている。

このため、一部からは何十億ドルもの資金を無駄遣いしたことを非難する声が上がっている。確かに結果を見れば失敗ではあるが、CEOだからといって将来の株価を予測できるものではなく、また自社株買いの実施についていちいち株主の意向を確認する必要もない。

株主はアップルの自社株買いの規模を考えれば、ビジネススクールのケーススタディで取り上げられるような大失敗に終わる可能性があることを覚悟しておくべきだろう。アップルの売上の大部分を稼ぎ出し、バランスシート上の現金を増やしているのはiPhoneだ。仮に技術革新や競争によってiPhoneの販売が落ち込めば、自社株買いで増えた借金によって財務リスクが一気に顕在化する可能性がある。かつて写真フィルム業界を独占したコダックは、デジタル技術への対応が遅れて業績が悪化しても自社株買いを続け、経営破たんに追い込まれた。

こうしたリスクが懸念されるものの、アップルが自社株買いの規模を拡大していることは、同社の一貫した姿勢を示すものとして評価できる。

多くのCEOは自社株買いに関して取得価額が高すぎるとか、株価が割安のときに実施をしないなどの批判に晒され、ティム・クックも例外ではない。ビリオネアのカール・アイカーンのような伝説的なトレーダーでもない限り、自社株買いを実施する最適なタイミングを計るのは困難だろう。そのアイカーンは、アップルの最大の個人株主の一人であり、2013年にクックに対して自社株買いを要求している。

現在のアップルのPER(株価収益率)は一桁台であり、アイカーンもクックも株価が割安だと感じているはずだ。このタイミングで自社株買いを実施すれば、これまでの平均取得単価を引き下げ、過去の失敗の痛みを少しは和らげることができるだろう。

編集=上田裕資

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