「VRバブル」はどこまで続く? 3Dテレビ失敗から学ぶこと 

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2015年は、私たちの生活を根本から変える技術としてVR(仮想現実)の将来性が盛んに宣伝された年だった。あのニューヨーク・タイムズですら「NYTVRモバイル」アプリをリリースしてVRの波に乗り、Facebookも昨年前半、20億ドル以上を投じてOculus VRを買収した。

だが、VRの目新しさを持ちあげるニュースが引きも切らない一方で、その現実的な面について語られることは少なかった。時計の針を、3Dテレビ旋風が起きた5年前に巻き戻してみよう。2010年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、ほとんどのメーカーが3Dテレビ関連の製品を展示した。

関係者は「数年後には家庭で立体映像を視聴するのが普通の光景になる」と自信満々だったが、2012年時点で3Dブームは既に沈静化し、その1年後には、スポーツ専門チャンネルのESPNの3Dチャンネルもひっそりと打ち切られた。それに代わり、テレビ業界は4Kテレビや曲面ディスプレイといった従来の2Dテレビの解像度向上に再び注力している。

3Dテレビの失敗にはさまざまな原因がある。高いコスト、不格好な画面、さらにはコンテンツ不足がダメ押しとなった。しかし、そのような問題は新しい技術につきものと言っていい。4Kテレビだって数年前まではとても手が出ない高級品だった。それよりも3Dテレビは吐き気や目の疲れなど身体的な不快感を招く製品であり、結局はそれが家庭での普及を妨げたことを押さえておきたい。

立体ビジョンを正確にとらえるのは簡単ではない。脳が奥行きを感知するには無数のファクターがある。人間の目が何かの動きを見ているときに、物体間の距離を測る過程でわずかでも不自然な要素があれば、身体に不調を及ぼしうる。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して月を見る姿を想像してほしい。あなたの脳は、肉眼で見える月との距離と装置を通して見える月との距離の違いについて理解しなければならない。

VRの世界とその応用技術は実は60年以上の歴史を持つ。現行のHMDのグラフィックや技術が昔のものから大きく改善する一方、VRの根本的な方法論、アプローチ法、そして応用技術についても次第に明らかになってきた。

筆者は学生時代、米国立スーパーコンピュータ応用研究所のVR部門で数年間研究に携わった。VRはゲームなどの特定の領域では巨大なポテンシャルを有する一方、長時間使用すると“オキュラス酔い”のような現象が起こったり、体調不良が生じたりする可能性がある。現状では、家庭での利用には適さない。

今はVRの目新しさに引きずられた報道一色となっているが、これがどういう結果をたどるかは未知数だ。VRやその派生概念の拡張現実(AR)は、巨大な可能性を秘めてはいるが、少なくとも2016年は、全ての人々がVRを使いこなす時代にはならないはずだ。

編集=上田裕資

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