HP社の「ブレンド・リアリティ」戦略 VR画像を医療分野で活用

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HP Inc.は、仮想現実(VR)技術を医療分野に活用し、医師たちが病気の診断や医療処置の計画を改善するサポートをしたいと考えている。HP Inc.とは、ヒューレット・パッカードが2つに分社化して誕生した、PCとプリンティング事業を展開する企業だ。

VR機器と言えばOculus Riftのヘッドセットのような形状をイメージするかもしれないが、HPの「Zvr」は23.6型ディスプレイだ。搭載された4つのカメラがユーザーの頭の動きをトラッキングし、専用メガネを着用すると3Dオブジェクトが映し出され、スタイラスペンで操作することができる。

HPは医療用ソフトウェアのスタートアップEchoPixelと組んで、Zvrを医療の分野で役立てたいと考えている。カリフォルニア州マウンテンビューに本拠を置くEchoPixelは、医療画像を3Dモデルに変換するソフトを開発している。VRの技術を組み合わせれば、臓器画像を3Dモデル化して仮想的に確認することが可能になる。

HPのハードウェアとEchoPixelのソフトウェアを組み合わせる目的は、病気の診断や手術の計画を充実させることだ。「通常、医師はコンピュータの前に座り、複数の画像を見比べて2Dの世界で診断を下している。我々は、画像を3Dモデルに変換させることで、これまで見落とされていた疾患を発見することが可能になると考えている。例えば、3Dスキャンの方が内臓のポリープや細胞の異常増殖を発見しやすい」とEchoPixelのCEO、Ron Schillingは話す。

「年間6億枚もの医療画像が撮影されているが、その半分以上が2Dで精査されている。医師たちが3Dの世界の問題を解決しなければならないにも関わらずだ」とSchillingは言う。
EchoPixelも医療画像をVR機器で映し出すことで診断を早めることが可能になると考えている。EchoPixelの創業者兼CTOのSergio Aguirreによると、同社がスタンフォード大学の医療チームと臨床試験を行ったところ、EchoPixelのソフトウェアを使うことで患者の診断に掛かる時間が40%短縮できたという。

しかし、医療現場で使えるようにするためには、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を得ることが必要だ。EchoPixelはソフトウェアを医師に販売する許可を3月に得ているが、Zvrはまだ承認されていない。このため、現状ではZvrを医療診断用ではなく、医療教育向けの機器としてしか説明できない。

EchoPixelはHPとの提携によって多くの顧客を獲得することが可能になる。同社は2012年に設立されて以来、これまで400万ドル(約4億8000万円)の資金を調達している。HPとのアライアンスにより、2016年末までに売上高が4倍に増えることが期待されるとSchillingは言う。HPは既に何百万台ものPCやプリンターを企業に販売しているが、営業担当者は今後医療分野の顧客への提案にZvrを含めることができる。

HPにとって今回の提携は、「リアル空間と仮想空間を融合させる“ブレンド・リアリティ(blended reality)”戦略の一端だ」と同社のグローバルヘルスケア部門でシニア・ディレクターを務めるReid Oakesは説明する。

この分野でHPは他にも「Sprout」というテクノロジーを持っている。Sproutは、いくつかのセンサーやカメラを搭載したデスクトップPCで、デザイナーやエンジニアが制作したオブジェクトを3Dカメラで取込むことが可能だ。「最大のチャレンジは、こうした素晴らしいテクノロジーを実世界で活用する方法を見つけ出すことだ」とOakesは話す。

編集=上田裕資

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