テクノロジー

2015.12.15 16:00

「イノベーション女子」“立ち上げのプロ”が切り開く、VRの未来。

photograph by Akina Okada

段ボール製のビューワーに専用のアプリをダウンロードしたスマホを繋ぐだけでVR(バーチャルリアリティ)体験ができる「ハコスコ」。1つ1,000円という手軽さもあり、昨年7月の発売から出荷台数は9万台を超える。デザイン性も高く、なかには広告メディアの役割を果たしているものも。

オペレーションのすべてを担当しているのがCOOの太田良恵子(45)。eBay、PayPal、Teslaといった米企業の日本事業の立ち上げを経験した後、気がつけばVRという未知の世界に足を踏み入れていた。「法務もカスタマーサービスも一人でなんでもやるCOO」と笑う。

大学卒業後に富士通に入社し、米国に頻繁に出張に行くようになったことで人生が動いた。エンジニアたちがみなでドーナツを食べながら短パンとサンダルで仕事をしている。そんな空気が、新鮮だった。

本格的に米国に渡り、就職先を見つけ、夜は大学に通いプログラミングなどを学ぶ。勤めていたのは、あのMITのすぐ近く。偶然にもそこで、未来の夫であり後にハコスコを生み出すその人、藤井直敬に出会う。

米企業でエンジニアとして働いた後、藤井の帰国を機に日本に戻り、日本再進出となったeBayやPayPalの立ち上げに従事し、6年を過ごす。
「タイミングがあったら、そこに乗る、というスタンスでしたね。ずっと立ち上げ屋だったので、形になったら次の案件を探してしまう」

その後、楽天での金融サービスの仕事に忙殺されていた頃、藤井は一人Amazonの箱を切っては、ハコスコの試作品を作っていた。昨年1月のことだ。仮想現実の世界がいくら面白くても、機器自体が高ければ裾野は広がらない。タダ同然のものを使い普及させることはできないか。それが藤井の思いだった。 

当初は大して興味を示していなかった太田良だが、ふと「機器そのものが広告媒体になるかも」と思いつく。広告主がいてコンテンツを作る人がいて、それを見る人がいる。そんなVRのエコシステムを一からつくりたい、と思った。

「これまでソフトウェアも車も売ってきた。売るものはなんであろうと、オペレーション自体は変わらない」

VRは、あたかも自分がそこに存在しているような感覚を味わえる特別な体験だ。たとえば移動が困難なお年寄りに、“バーチャル世界旅行”を楽しんでもらうことだってできる。「VRはビジネスとして成立しない」と言われるなか、ハコスコは初年度、黒字スタート。経験に裏打ちされた嗅覚で、最先端技術が持つ可能性をがっちりと広げている。


太田良恵子おおたら・けいこ2014年、理化学研究所に所属する研究者である夫とともに「ハコスコ」創業。同年、グッドデザイン賞を受賞。没入感たっぷりのライブ映像など、子供から大人まで楽しめるコンテンツが充実(写真は、コンテンツ動画を背景に合成したもの)。2015年、VRコンソーシアムを設立。

古谷ゆう子 = 文 岡田晃奈 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.16 2015年11月号(2015/09/25 発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

イノベーション女子

ForbesBrandVoice

人気記事