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Photo by Vatican Pool/Getty Images

2015年12月初旬、アートとテクノロジーの業界を代表するそうそうたる面々がバチカン市国に集まった。ローマ・カトリック教会の総本山であるこの地に数多く存在する貴重な芸術作品をデジタル技術で保存し、閲覧機会を増やすという議題で語り合うためにだ。バチカン・アーツ・アンド・テクノロジー評議会の初会合となるそのこぢんまりとした集会では、ルーヴル美術館、メトロポリタン美術館、Google、Facebook、Instagramなどから、経験と情熱を兼ね備えた代表者たちが顔をそろえた。

呼びかけ人は、Web接客ソリューションを手がける米LivePerson社の創業者兼CEOであるロバート・ロカシオ。7年前にバチカンのアート関係のプロジェクトに関わったのが最初のきっかけで、それ以来、アートとテクノロジーと信仰の世界をデジタルの場で融合したいというバチカンの構想をいかに実現するかを各界のオピニオンリーダーに討議してもらう、そのための場を設けたいと思っていたという。そのロバートとは旧知の仲ということもあり、私はForbes社CEOとして会合に参加することになった。

我々参加者が何よりも深く心を打たれたのは、ローマ・カトリック教会のトップによる新たなリーダーシップがなければ、この会合は実現するはずもなかったということだ。バチカンの美術品アーカイブを公開することがもたらす無限の可能性について議論するなど、従来ならとうてい考えられないことだったからだ。フランシスコ法王は、ビジネス界の優れたCEOがいかにもやりそうなことに、バチカンのほぼすべての活動によりオープンなワークスタイルを導入するというビジョンを我々に示してくれた。会合の場で何度も伝えられたのは、いっそうオープンで透明度の高いやり方を法王猊下は求めておられますというメッセージだった。ローマ法王への就任直後にバチカン放漫財政に激怒したというエピソードとも相まって、それはいかにも人柄が偲ばれるような言葉だった。

ちなみにフランシスコ法王は、すでにデジタル世界の住人だ。Twitterのフォロワー数は800万人を上回り、「イスラム教徒とキリスト教徒は兄弟姉妹だ」として融和と協調を最近訴えかけたように、頻繁にツイートをしている。

CEOの端くれとして私が大いに感服したのは、組織のトップとして常に、結果がどう転ぼうとも戦略をみずから打ち出すというあの方の姿勢だ。親しみやすさとカリスマ性の両面でずば抜けたフランシスコ法王の個人的資質もそれにプラスに働いている。世界も教会も荒波にもまれている今、困難や障害がただならないことは百も承知でいながら、法王はみずからの行動で規範を示す必要を実感している。完璧を求めるのではなく、とにかく前に進むことを求めているのだ。

おかげで、バチカンのどこに踏み込んでも、「ノー」と言われることはまずないし、「前例がないから」や「それは認められていないから」という答えが返ってくることもおよそない。バチカン広報事務局のルイス神父はこの通信ルネッサンスのミケランジェロたるべき大任を自覚しており、すべての会合に臨席する意気込みをみせた。

ちょうどフランシスコ法王が「慈悲の聖年」(2015年12月8日〜2016年11月20日)の開幕を宣言したところとあって、サン・ピエトロ大聖堂へのプロジェクションマッピングの投影を見ることもできた。貧困、気候変動、そして人の優しさという投影映像のテーマにも、法王のイニシアチブが見て取れる。

会合の期間中、法王はアフリカを歴訪中だったため、我々が直接お言葉を賜ることはかなわなかった。このアフリカ歴訪は危険でもあり、あえてその旅に出たのもフランシスコ法王ならではのことだ。飛行場への着陸を前に飛行機が乱気流に巻き込まれるトラブルがあり、着陸は無理かもしれないと伝えられたことがあったそうだ。ところが78歳の法王が返したのは、こんな言葉だった。「パラシュートはどこにありますか? それで飛び降りますから!」こうしたエピソードからも、自ら規範を示す法王のリーダーシップが窺える。

評議会の会合に話を戻すと、コレクションの膨大さと価値の高さも悩ましい問題だった。ありとあらゆる分野に属する50万点もの美術品があり、数千年前のものから現代の作品まで年代も幅広い。多くの収蔵品が修復を必要としているのだが、個々の作品を対象に寄付金を募るすばらしいプログラムが用意されている。たとえば、スフィア(球体)という1990年完成のブロンズ製の作品があるのだが、この作品への寄付金プログラムを運営するシアトル在住のリチャード/リザ・アティッグ夫妻は会合に出席して、誇らしげにその意義を語った。また、バチカンのマーク・ハイドゥ神父によれば、進行中の修復プログラムが120件を上回ったためしはなく、できればその数を何倍かに増やしたいとのことだ。

会合で何より興味をかき立てられたのは、アートとは要するにストーリーテリングの媒体なのだという議論が盛り上がったことだ。何百年も前、地理的な遠さと識字率の低さから、カトリックの信徒たちには各種の美術品を通じて信仰のストーリーが伝えられていた。そうしたアートを後世に残さねばならないのだ。そして今、ウェブやソーシャルメディア、急速に市場が拡大しつつあるモバイル機器などのテクノロジーを利用して、そうした物語をより深く、より広範に世界に伝えることもできるのではないか。フランシスコ法王は人間の尊厳への深い敬意、愛情、そして優しさを世界に広めようと、宗教色の濃淡さまざまなメッセージを発信し、共有してもらおうと務めている。それにテクノロジーが一役買うこともできるかもしれないのだ。

我々は、こうした評議会にふさわしく、達成目標を標語にまとめようとした。そのひとつが、「新たなるリテラシー」というものだ。かつて、文字を読めない人々にストーリーを伝えるために使われた絵画が、テクノロジーの虜になりすぎていて同じストーリーを読み取ることに人の手助けを必要とする人々に直接リーチできるようになるという標語だ。

テクノロジーを手なずけてストーリーを物語り、アートの鑑賞者を広く集めるにはどうすればよいのかという議論も白熱した。カリフォルニア州の研究室から参加したディーパック・チョプラ医学博士は、こんな一言で我々に釘を刺した。「テクノロジーは中立の存在です……その奴隷ではなく、主人にならなければなりません」

とにかく、最終的な目標は、アートとテクノロジーを用いて人間の優しさや親切心をストーリーとして伝えることだ。システィーナ礼拝堂の壁画が500年前に伝えたメッセージを、現在のデジタルツールは同じような文脈で伝えることができるかもしれない。

完璧さははるかに遠い目標かもしれないが、とにかく前へ進むことはできる。それこそが、CEOとしてのフランシスコ法王のリーダーシップの取り方なのだと、身をもって知ることのできたローマへの旅だった。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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