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5日に行われたギリシャ国民投票の出口調査で、緊縮反対派が優勢との速報を聞き歓喜する人々。
(7月5日撮影 Photo by Ayhan Mehmet/Anadolu Agency/Getty Images)



ギリシャで5日国民投票が行われ、欧州連合(EU)が提示した金融救済案を否決した。接戦が予想されていたため、否決そのものについてはある程度、織り込み済みとは言えるが、シニカルなことで知られる英国でもさすがにここまでの大差は予想していなかったようだ。

英国ではEU残留に向けた国民投票を2017年までに実施することになっており、「ギリシャのユーロ圏離脱後の混乱が、(英国内の)脱ユーロ派を勢いづかせる懸念がある」(ザ・テレグラフ紙)といった論調が目立っている。

ユーロ通貨を採用していないこともあり英国ではギリシャ危機といっても他人事のようだ。筆者の周りでも「この夏のバカンス、ギリシャで予約してあるけど、行っても大丈夫なのか」といった程度の反応が多かった。インディペンデント紙などは、ギリシャ旅行の特集記事で、「カードは使えないかもしれないけど、現金なら大丈夫。キャンセル必要はない。旅行客が少ないのでゆっくりバカンスが楽しめる」といった旅行ライターのコメントを掲載していた。ただ、今回の結果は事前の予想の範囲を大幅に超えており、今後の情勢によっては観光どころでなくなる可能性がありそうだ。

欧州文明は古代ギリシャにルーツを持ち、ヨーロッパ人の多くはギリシャに対してノスタルジックな感情を抱いている。ギリシャがオスマントルコ帝国からの独立のため戦っていた19世紀、フランスの画家、ドラクロワは「キオス島の虐殺」でトルコの暴虐を訴え、英国の詩人バイロンは志願兵となって現地に赴いた。ギリシャ人も欧州人であることを誇りとし、EUにも早くから加盟している。

ただ、現在のギリシャが本当に西欧の一部であるかどうかと問われると、疑問を感じざるを得ない。訪れてみれば分かるが、街中の混乱ぶり、食習慣、おみやげ物まで、隣国のトルコなどの中東諸国とそっくりだ。歴史的にも古代ギリシャはローマ帝国がキリスト教を国教化した4世紀で途絶えたとされる。

ローマ帝国を引き継いだコンスタンチノープル(現在はトルコのイスタンブールで)を首都とした東ローマ帝国(ビザンチン帝国)はギリシャ語を公用語としていたが、現在のギリシャ本土は辺境とされ、スラブ人やトルコ人の支配が続いていた。古代を除けば、欧州よりも中東に属した時間のほうが長いのである。

現在まで続くギリシャ危機の原因は、2002年のユーロ導入をあせったギリシャが、財政赤字の規模を3分の1以下にするという国家ぐるみの粉飾会計を行った上、04年のアテネ五輪などで放漫財政に走ったことだ。基幹産業は観光、農業、海運業などだが、国民の10%が公務員で、分厚い年金制度もある。長期的なデフォルト(債務不履行)状態を、これまでどうにか覆い隠してきたギリシャだが、ツケはいつか払う時が来る。英国でもフィナンシャル・タイムズ紙などは「破滅の淵に向かっているのに、引き返す道がなくなっている。チプラス首相はEU案を拒否しろという呼び掛けの意味を分かっているのか」と厳しくギリシャの交渉姿勢を非難していたが、そんな声は届かなかったようだ。

今回の国民投票直前、人気取りのためチプラス政権が行ったのは、公共機関と電話料金の一時的な無料化。ドイツのメルケル首相をはじめとする欧州各国の首脳は、激しい虚脱感に襲われたに違いない。街角のインタビューでも「(EU支援案を)拒否すれば、ひょっとしたら新たな局面が開けるかもしれない」といった声も聞かれていた。

英国の歴史家カーライルの言葉、「この国民にして、この政府」が自然と頭に浮かんでしまう。インディペンデント紙は結果の判明後、「将来的に誰が欧州人と呼ばれたいのか、が問われるべきだ」として、欧州の一員としてのギリシャの存在に疑問を投げ掛けた。

ギリシャ人の特質を「ビザンチン的頑迷さ」と、表現されることがある。コンスタンチノープルの陥落が迫る中、カトリックへの改宗を条件にした西欧からの支援を拒否、1453年に東ローマ帝国は滅亡した。ギリシャ国旗の青と白の9本の横縞は、ギリシャ国民なら誰でも知っている独立戦争時の合言葉「自由、しからずんば死」の9音節を表しているという。

チプラス首相が土壇場で国民投票を持ちだし、交渉のテーブルをひっくり返してしまった際、ギリシャ住む日本人の知人は「事の是非はともかく、ある意味で感動した」という。西洋的常識の理解を超えたギリシャに対する一種の畏敬だろう。ただ、残念ながら「浪費、しからずんば死」という決意では、どこからも援軍は望めそうにない。

文 = 加藤雅之

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