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Sergey Nivens / Shutterstock

先日、非常にまともなエコノミストが極めてばかげたことを言っていた。低金利と連邦準備制度(FED)の政策が不透明なため、企業がリスクをとりたがらず、そのためアメリカの経済成長率が潜在成長率を下回っていると言うのだ。
これは、意見や仮説としても事実に反しており、まさに“陰気な科学”(19世紀イギリスの歴史家・評論家のThomas Carlyleが経済学をこう呼んだ)である。

経済論として分析する以前に、これは市場やマスコミのウケを狙ったものと言わざるを得ない。

また、金融メデイアを検証する際には、読者に読む気を起こさせるために、エンターテイメント性をも持たせていることを理解している必要がある。そのため、複雑な理論を提示しにくいことが多い。ただし、この場合でも堅固な分析がされていない理由はならない。

このエコノミストは、以下のように述べ、「経済学」が悲観的であるとしている:

「新規投資をしたい国内企業は多いが、不透明性がある。企業には、FEDが金利を変動させたらどうなるのかの予測がつかないため、待つしかないのだ。FEDの政策が変更させたら、成長が高まる動因になる。ここ3年、経済が停滞して平均成長率が鈍化している問題の多くは、FEDが政策変更したらどうなるか不透明なためだと考える。」

これは、事実としても理屈としてもかなり極端だと考える。米国企業が支出をしないのは、FEDの政策が不透明で金利が低いためである。
「低金利(もしくは金利の不透明さ)=米国企業がよりリスクをとらなくなる=米国経済の成長鈍化」

米国経済とその分析は、非常に複雑で多面的である。米国経済には、ハイゼンバーグの不確実性の理論が当てはまる。経済とは、その一要素を動かすと、その他の要素が思いもかけない複雑で異なる動きをするものである。こういった複雑さとリチャード・テイラーの行動の不確実性を合わせてみるとどうなるか…。米国経済は、複雑なのだ。

このエコノミストの推論が、不正確で明らかな間違いであることは、長々分析するまでもない。彼に、今までこの話をして、どれほどの企業が「いや、当社はジャネットFED議長と理事連中が金利を0.25%引き上げるか見極めてから配送トラックのタイヤを買うつもりだ」と答えたかを訊ねてみるといい。12月の連邦準備制度の公開市場委員会が、「現状維持」かもしれないので、投資やクリスマス雇用を遅らせると声明した公開企業が何社あっただろうか。

公開市場委員会で金利が上向きだったら、翌日12月17日に会議を招集して、支出を増やして経済成長を高めようなどと考える企業などない。
金融部門を除いて、ほとんどの企業は、実質デフレやひどいインフレ状態でない限り、金利変動や国債利回りカーブのガンマ曲線によって設備投資や事業を計画するようなことはしない。結果的にそう見えても、それが動機ということはない。

以下、このエコノミストの推論についての検討してみた。

・経済がデフレでなければ、低金利は設備投資を促す傾向がある。公開企業の設備投資動向が、低調もしくは鈍化しているのは事実である。しかし、ゼロ金利をその理由にするのは間違っている。例えば、S&P500社の2015年第2四半期までの12ヶ月の設備投資は、2.73%増えている。この数字は2014年には低下していた。もしゼロ金利政策が低調な設備投資の根本原因であり、市場がゼロ金利を脱することを予期していれば、その動きを先取りして設備投資も増加に転じたはずである。しかし、それは起こっていない。したがって、このエコノミストの推論が示すようなゼロ金利政策と設備投資の関連性はない。

・低金利が財務編成を助長する傾向はみられる(企業の財務担当者や経営幹部が設備投資に柔軟であることが前提)。

・実際上、ゼロ金利政策は企業家の活動意欲を削ぐより、むしろ鼓舞するのかもしれない。財務リスクをとることと、経済リスクをとることには、緊密な関係があるのだろうか。これについてのしっかりした理論は殆どない。素人論が横行しており、意見と言うよりも事実を述べているにすぎない。

・低金利とゼロ金利政策は、おそらく雇用を助長するであろう。雇用するということは、生産性が低い状況でも企業がリスク回避せずにリスクをとることを意味している。

米国債の利回りカーブのバックエンド(右端)は、企業支出、雇用および成長のフロントエンド(左端)よりはるかに重要である。利回りカーブのバックエンドは、金利が上昇しても著しい上昇はしない。ヘッジングとリスク回避から、長期利回りは下がることさえあり得る。

このエコノミストは、ベン・バーナンキ議長が「テーパータントラム(市場の混乱)」を引き起こさせた期間中に、米国GDPが非常に高い成長率を示したことも指摘している。では、FEDが量的緩和を完全放棄した際に、それ以上の経済成長をしなかったのはなぜか。上記のリストは、決して完全なものではなく、今回私が疑問視している経済推論と同じように、これらの要素の幾つかは、どちらの方向にも動き得ることは、私も認める。

おそらく、米国企業の意思決定に影響する政策の不透明性について、もっと考察されるべきであろう。財政政策と関連した医療規制の不透明性の方が、ゼロ金利よりも企業のリスク負担により大きな影響を与えていると言ってよい。

最後に、より高い経済成長の前兆であれば金利上昇が「良いこと」であることは同感である。FEDが、「適正な」理由で金利を上げるのであれば、企業家精神を促すだろう。私もそれを願っている。ただし、よりきめ細かで厳密な経済分析に対して、事実を推測して観念を展開するのは安易に過ぎる。それについては、私も同罪であることは認める。しかし、私はエコノミストではない。

これが経済の予測を「陰気な科学」とする主な理由である。それはしばしば論理的で、単純化され比例的かつ数学的なものとして提示されることが多い。しかし、実際はそうでもない。経済が複雑であるという意味では、当該の経済推論は正しいのかもしれない。実は、それほど単純なのかもしれない。だとすれば、ゼロ金利があらゆるリスクをとる行為を抑えたからではない。


免責注記:これは投資アドバイスではありません。ご自分で学習してください。投資をする前には資格のある投資顧問業者、税理士および弁護士にご相談ください。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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