モンテネグロとロシアの非難の応酬は、ウクライナ東部の状況と類似している。現実に、ウクライナ東部にあるドンバス地域はロシア政府を支持する勢力とキエフの対立の狭間におかれ、政治的な不安定さから地盤産業が壊滅的な打撃を受けた。一連の問題によるアメリカやEU諸国によるロシアへの経済制裁も続いている。
モンテネグロ政府は、ロシアが自国の利益のため、ウクライナだけでなくモンテネグロのNATOやEU加盟も阻止しようとしているとして批判を強めている。
ジュカノビッチ首相には、これを機にロシアに非難の矛先を向けさせようという思惑がありそうだ。というのも、ジュカノビッチ首相はイタリアの反マフィア組織とタバコの密輸をめぐるスキャンダルが明らかになるなど、自国での問題を抱えているからだ。2013年にはロシアのビリオネアであるオレッグ・デリパスカ氏がアルミニウム関連会社を巡りモンテネグロ政府に訴えをおこしたが、結果的にジュカノビッチ政権下で同社に対するロシアの権益を取り除いたのも、懸念される国内問題の一つだ。
11月10日にEUがモンテネグロのEU加盟に関する進捗レポートを発表すると、その5日後に反政府デモが起こった。一方で、NATOもモンテネグロ政府に対してNATO加盟に向けた国内改革を進めるよう促している。ロイター通信は、12月にはモンテネグロのNATO加盟について結論が出る見込みで、ロシア政府は強く反対していると伝えている。
ジュカノビッチ首相はこれまで反政府デモに際して繰り返しロシア政府を非難してきた。反政府デモが暴徒化した2日後の10月21日に、ジュカノビッチ首相は地元テレビのインタビューでこうコメントしている。「ロシア外務省がロシア政府はデモ参加者を支持すると表明していることからも明らかなように、ロシアは政治的な意図をもって我々の内政に干渉している。バルカン諸国のNATO加盟を阻止するのはロシアの国家戦略であり、デモを呼びかける勢力はモンテネグロ以外の利益になるような特定の政治的、経済的、国家安全保障政策的な思想をもったものである」。そのうえで、ジュカノビッチ首相は「我々はヨーロッパ・大西洋の枠組みに入る以外選択肢がない。過去のモンテネグロの歴史を振り返っても、周辺諸国との宗教的、民族的対立によって間違った方向へ進むことは悲劇以外の何物でもない。我々は抵抗勢力を排して、ヨーロッパ・大西洋の国々の一員になることに全力を尽くす」と強調した。