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2015.11.17 07:00

「天才は反骨精神に富む」 伝記作家が見たジョブズ

フォーブスジャパン11月号より

フォーブスジャパン11月号より

ジョブズはどんな「天才」だったのだろうかー。天才を描く伝記作家・ジャーナリストのアイザックソンに聞いた。 

生前のスティーブ・ジョブズから執筆を頼まれた公式伝記『スティーブ・ジョブズ』の著者でベストセラー作家のウォルター・アイザックソン。ジョブズの死後、発売され、話題になった同書以外にも、ベンジャミン・フランクリンやアルバート・アインシュタインなど、「天才」の伝記を書かせたら右に出る者はいないと言われる。

近著『The Innovators(イノベーターズ)』では、発明家やエンジニア、ハッカーなどのコラボによるデジタルイノベーションの流れを鮮やかに描いてみせた。 米国を代表するジャーナリストでもあるアイザックソンが、ジョブズや米国のイノベーションについて語った。

―あなたが伝記を書かれた偉人など、他の天才的人物と比べ、ジョブズの特徴は何だと思われますか。

ウォルター・アイザックソン(以下、アイザックソン):ジョブズは、アートとテクノロジーをつなぎ合わせる力を持っていた。その点では、どのイノベーターにも勝っていた。彼は、美は重要なものだという信念を持っていた。京都の近くで目にした禅ガーデン(日本庭園)に心を奪われるような人だった。細部にわたって美しくなるようにコントロールする必要があると考えていた。

―ジョブズと他の天才との共通点は。

アイザックソン:天才には、反骨精神に富み、権威に疑問を投げかける人が多い。アインシュタインもジョブズもそうだった。 1990年代後半、ジョブズがアップルに復職してから打った(アップルコンピュータの)広告にも、「シンク・ディファレント(固定観念を捨てて違う発想をする)」など、そうした精神が表れていた。彼は、「世界を変えられると考えるほどクレージーな人間が、本当に世界を変えるのだ」と言っていた。アインシュタインも反骨精神にあふれ、常識や権威に対抗する人だった。

―人間的な面で、天才に共通する特徴は。

アイザックソン:アインシュタインは博愛主義的で、人間を愛していた。ジョブズは仕事にフォーカスしていたが、製品を通して、人類に大きな影響を与えた。半導体チップを発明した(インテルの共同創業者)ロバート・ノイスは、最もナイスで優しい人間の一人だった。その一方で、付き合いにくい天才もいる。天才に共通するモデルはない。
―ライバルだったビル・ゲイツはどうですか。

アイザックソン:
けた外れの知的能力の持ち主だ。ジョブズのような芸術的・デザイン的センスは持ち合わせていないが、ビジネスセンスや、合理的に情報を分析する能力にかけては、ジョブズの上をいく。慈善活動においても、他者の追随を許さない。

―二人のライバル関係については。

アイザックソン:彼らは、お互いに好感を持ちながら、競い合ってもいた。だが、ジョブズの人生の終焉が近づいたとき、ゲイツは見舞いに訪れ、二人の意見が食い違っていた問題の一つについて話し合った。それは、コンピュータハードウェアと基本ソフト(OS)、ソフトウェアをめぐる意見の相違だった。

ジョブズは、アップルのOSを使ったアップルのハードウェアにiTunesストアというように、3つがセットになっているべきだと考えていた。 一方、ゲイツの見解は、多くの企業がハードウェアを製造し、ソフトウェアとは切り離すほうがいいというものだった。だが、最後には、二人とも、どちらのアプローチにもメリットがあるという考えで一致した。

―あなたは、『スティーブ・ジョブズ』で、ジョブズに「壮麗な成功をもたらしたのは、第1幕におけるアップルからの追放ではなく、第2幕におけるきらめくような失敗の数々」だと書かれています。

アイザックソン:そうだ。アップルからの追放も大変なことだったと思うが、彼が最もいろいろなことを学んだのは、アップルを去った後に設立したネクストでの日々だったのではないか。素晴らしいコンピュータだったが、高価で、あまり売れなかった。そうした経験から、彼は、売れる製品を作るためには妥協やトレードオフも必要だと学んだ。また、優れた人材を雇い、彼らを信頼しなければならないということも学んだ。
―近著『イノベーターズ』では、コンピュータやインターネットの発明など、デジタル革命を詳細に描かれていますね。

アイザックソン:
そうだ。しかし、ガレージや実験室で何かを発明した天才の話ではない。デジタル時代のイノベーションは、一人の天才がもたらすのでなく、共同作業によって生まれるものだ。コンピュータもインターネットも、反骨精神にあふれ、権威を破壊するような、創造性に富んだ革新的な人々のコラボによって生まれた。あまり知られていないが、これが、20世紀後半に米国で起こったイノベーションの極意だ。




ウォルター・アイザックソン◎米「TIME」編集長、CNN・CEOを経て、2003年よりアスペン研究所理事長。ジャーナリストであり伝記作家。ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』『ベンジャミン・フランクリン伝』『アインシュタイン伝』『キッシンジャー伝』がある。近著に『The Innovators』がある。ワシントンDC在住。

肥田美佐子 = 文

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