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コミック、ポップカルチャービジネス担当ライター。

Radu Bercan / Shutterstock

米アマゾンが同社初のリアル書店Amazon Booksを11月3日、シアトルのショッピングモール内にオープンした。実店舗の目的は本を売ることではない。データ活用だ。   同店のお披露目は実にひっそりと行われた。先月上旬、ワシントン大学のそばにあるモールUniversity Villageで密かに進んでいた開店準備の様子を出版業界のニュースサイトShelf Awarenessが報じて一部の関心を集めたが、その記事が無ければ誰も気づかなかったかもしれない。 オープン当日、筆者は昼過ぎに店を訪れた。内装はシンプルで、棚の配置もすっきりしている。ただ、バーンズ・アンド・ノーブルやボーダーズといった1990年代後半に旺盛を極めた大手書店チェーンの高級感あふれる店舗に比べると、あまりにも素っ気なく、蔵書のセレクトも面白みがない。本好きが求める書店空間ではないことは明らかだ。 スタッフによると、実店舗ではオンラインショップで星4つ以上の高評価がついている書籍を厳選して販売しているという。しかし、地元の書店経営者は、その品揃えを「非常に奇妙」だと形容する。オンラインショップの余剰在庫を並べているようにすら見えるという。大規模書店がすぐ隣の大学キャンパス内にあるにもかかわらず、アマゾンはなぜこの場所にこんな中途半端な店をオープンしたのか? その理由はデータだ。Amazon Booksではすべての本にプラカードがついており、そこにはオンラインショップ上のカスタマーレビューの抜粋と星の数とバーコードが載っている。値段の表示はない(日本と違いアメリカでは書籍や雑誌の定価販売が義務づけられていないため、通常は書店ごとの値札がついている)。来店者が値段を知るには、スマホにアマゾンの公式アプリをインストールし、バーコードをスキャンする必要がある。 この時点で、来店者の個人情報は店に筒抜けである。オンライショップでの購入履歴、購入傾向、アマゾンのプライム会員であるか否か。それらのデータをもとにアマゾンはクーポンを発行したり、推薦コメントを表示したりして、来店者が今、リアル店舗で手にしているその商品を買いたくなるように働きかけてくるのだ。 現在、Amazon Booksの全商品はオンラインショップと同じ値段で販売されている。また店舗スタッフの話では、「買う人によって値段が異なることはない」という。だが将来的には、個人ごとに最適化された価格設定になることも考えられる。 この販売モデルこそが、Amazon Booksの「商品」に違いない。近年のアマゾンにおいて、もはや本はメインの商材ではない。同社の2015年の会計報告によると、収益を生んでいるのはクラウドサービスである。巨大なデータセンターを世界各地に持つアマゾンは、多くの企業にITインフラストラクチャのサービスを提供している。 クライアントである他の小売企業に向けて、ネットとリアルの融合を実演して見せるショールーム。それがシアトルの小さな書店Amazon Booksの正体なのではないか。もし、そうだとすれば、SF映画『マイノリティ・リポート』に描かれたような未来が、ここから始まるのかもしれない。

翻訳編集=海田恭子

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