CONTRIBUTOR

川村 雄介

川村雄介の飛耳長目

1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新証券市場』など著書多数。

  • ロクヨンの北京と天津漫才

    拍子木を両手にリズミカルな台詞が響く。独特の節回しの中国語の意味はさっぱりわからないが、得も言われぬ滑稽さである。6畳ほどの狭いゼミ室では、数名の若者が真剣な眼差しで、演技する学生を見つめている。戸口に仁王立ちの中年男性が指導教員だ。ここは、国立の天津芸術職業学院。二つのキャンパスを持つ。「天津漫才 ...

  • ユニコーン創出を目指す「中国版NASDAQ」の本気度

    夜霧にかすむ黄浦区、外灘の光景は時代を超えたエキゾチシズムを感じさせる。横光利一の『上海』を思う。視界が悪いお陰で、鉄の塊のような味気無い高層ビルが背後に隠れ、欧米租界時代の石造りの建物が浮かび上がっている。おりから開催された日中資本市場フォーラムの中国側主催の晩餐会場からの眺めだった。このフォーラ ...

  • 官民で進むフランスの成長戦略

    パリ北駅は、往来の人々でごった返していた。時刻表スクリーンに目をやると、近距離線はほぼ定刻のようだが、ロンドン行きにはかなりの遅れが出ている。 「Brexitの影響です。先週のロンドン出張は参りましたよ」。こぼすのは、パリの国際機関に勤務するスタッフだ。英国のEU離脱となると、物流、金流、人流が大混 ...

  • 平成に入って曲がり角の大学教育 東京集中を変えるカギ

    その若い女性は清潔感あふれるセーラー服姿で、大学面接室の堅い椅子に腰かけていた。いかにも聡明そうな目線が印象的だ。夜間主入試の面接であった。私を含めた長崎大学の面接試験官は、彼女の正確で明瞭な回答ぶりと応募資料の中身にいぶかしさを感じていた。高校は県内有数の進学校、成績は常に学年5番以内をキープして ...

  • 中世ヨーロッパの歴史から見る「EU崩壊」

    パリのノートルダム大聖堂が、見るも無残に焼け落ちてしまった。大聖堂を訪れたばかりだった私は、悲報に触れて、数瞬、言葉を失った。尖塔が焼失してしまった中、聖堂内の見事なステンドグラスやジャンヌ・ダルク像は無事であろうか。門前の露店に被害はなかっただろうか。アルベール・カミュの「カリギュラ」初版を自慢そ ...

  • 仕事は「憧れ」で選ぶ 親は子の良きアドバイザーになれ

    初場所3日目。国技館の館内は、千尋の巨大波動が寄せ来るような歓声にうねっていた。重い怪我に苦しみ続けていた横綱が、最後となる土俵に上がっていた。その愚直なまでに真摯な相撲道への向き合いに、ほぼ全ての観客が、一種の霊的トランス状態の中にあった。稀勢の里は、いつの頃から大相撲に惹かれていったのだろうか。 ...

  • わかりやすさより面白さ 上海・復興公園の「株情報会」で思うこと

    上海は旧フランス租界の一角にある復興公園である。北京とはがらりと違う大らかな雰囲気で、昔からの国際都市を思わせる。空気もきれいだ。案内してくれる劉君は、日本語が堪能な若き事業経営者である。土曜日とあって老若男女で賑わう園内で、日本ではもちろん、北京でも見かけたことのない光景に遭遇した。そこここに、2 ...

  • ウミガメが示唆するSDGsと市場の在り方

    波打ち際では10センチにも満たない黒い生き物が、三々五々、海に向かってよちよちと歩を進めている。ウミガメの赤ちゃんたちだ。灼熱の太陽が傾き始めたインドネシアのバリ島である。密猟や環境汚染のせいで、めっきり数を減らしたウミガメを保育しようと、卵の孵化から放流まで手掛けるセンターがこのバリ島にはある。折 ...

  • 「無電柱化」が分けた国際社会の明暗

    去燕の季節である。天井が抜けたような高い空を見上げると、思わずため息がでる。その碧さにではない。巨大な女郎蜘蛛の巣のように視界を邪魔する黒い網の目に、である。張り巡らされた電線だ。オリンピックに向けて建設の槌音も頼もしい東京だが、その景観は決して褒められたものではない。無秩序に林立する高層ビルと古い ...

  • 日銀と中国の「五十歩百歩」

    爆食といえば中国の代名詞である。おコメの消費量は年間約1億5000万トンと日本の20倍、基本的に先進国ほど多い砂糖消費も、年間1800万トンに達している。日本は糖質制限ブームの下で、いまや200万トンを切ろうとしている。8月のお盆前、蒸せい籠ろ 蒸しのような東京の猛暑を避けようと、私は江の島海岸にい ...

  • 定員割れの大学がとるべき施策とは?

    稲妻が走り、雨がぱらつく沖縄であった。だが、雷鳴をかき消すような若い女性たちの歓声が止まなかった。那覇の国際通りにほぼ隣接する好立地の真新しいビルは、今春開校したばかりのエンターテインメントの専門学校である。ときあたかも、同地で開催中の国際映画祭でレッドカーペットを練り歩くべく、著名芸能人が次々に控 ...

  • 商工中金のあるべき姿とは?

    昭和11年5月6日の衆議院本会議。2.26事件で総辞職した岡田内閣の後を受けた広田弘毅首相が施政方針演説に立った。時局が緊迫し、昭和恐慌から抜けきれない当時、中小業者は金策に困り果てていた。広田は、「最近国民生活ニ対スル重圧ガ愈々加ハラントシ、(中略)政府ハ国民生活ノ有ユル分野ニ於イテ其ノ安定向上ヲ ...

  • 株式市場を占う前にすべきこと

    数多いる西欧の伝奇的人物のなかでも、最も有名な存在が予言者マーリンである。中世ブリテンの揺籃期から活躍し、アーサー王の聖剣伝説の立役者としても名高い。マーリンは心身ともに純潔な乙女が熟睡中に、悪魔に懐妊させられて生まれた夢魔の子と伝えられる。悪魔の能力を受け継いでいるので、過去に生じた事象すべてを熟 ...

  • 「紙芝居」はメディアのビジネスモデルのお手本か?

    古いが頑丈そうな自転車だった。街角に止まると、辻々から子供たちが集まってくる。中年男がサドルから降りて、荷台の四角い箱の前に立つ。自転車の横に陣取った小学生が叫ぶ。「今日は、墓場鬼太郎をやってよ」。そう紙芝居だ。昭和30年代にどこの町でも見られた光景である。紙芝居で育った子供たちは、中学生になるとテ ...

  • 「投資などやめろ」と言うアンチ株式投資派への疑問

    平成不況に入って間もないころ、ある大手証券会社のOBが晴れ晴れした表情で言った。「株を持っていて本当によかった」。彼は駆け出し社員のころ、昭和40年の証券大不況に見舞われた。当時最大手だった山一證券の破綻がささやかれるなか、勤務先の経営も厳しくなり、株価は30円台にまで下落した。「会社のピンチを救お ...

  • 仮想通貨は人間の何をかえるのか?

    仙人のように齢を重ねた人物であった。とうに300歳を超えていた。身の回りの面倒はすべて、彼が作りだしたロボットたちがみてくれる。筋肉と内臓は定期的な細胞の入れ替えのお蔭で、静穏に過ごせばまだ100年くらいは問題ない。この天才は、ただ一人地球滅亡を逃れ、銀河系の縁に寓居を構えていた。自分好みの伴侶ロボ ...

  • 日本に悲観論を蔓延させる「未来予測本」への違和感

    その男には、森羅万象、日常生活のすべてが心配の種であった。路地を歩けば地面が割れて呑みこまれるのではないか、草原に出ると天空が落ちてきて押しつぶされるのではないか、万事深刻で悲観的な発想しかない。中国周代の杞の国に生きた彼は、後年、誰もが知る熟語の生みの親になった。「杞憂」である。最近の書店で売れ筋 ...

  • 70代からの生き方、現代版「伊能忠敬モデル」

    早雲寺殿二十一箇条は、戦国大名の走り、北条早雲の人生訓、と伝えられている。曰く、「少の隙あらば物の文字のある物を懐中に入れ、常に人目を忍びて見るべし。寝ても覚めても手なざれば文字忘れる事あり。書くことも同じき事」。早雲は壮年期を過ぎてから戦国人としての本格的な活動を始め、齢80にして後北条氏5代にわ ...

  • 日本の「空き家」を狙うのも、やはり中国の人々か

    東京郊外としては敷地が広い屋敷である。知人が最近、リフォームを完了させた建物だ。羨望の目を向ける私に、彼は嘆息で応えた。「いまや、スクラップにお金がかかる。ビルドにはもっとかかる。スクラップアンドビルドになったら大変なんだ」。最近、路線価も上がってきたし、この古屋を売却して都内のマンションに引っ越す ...

  • 「おカネの使い方」を教える米国と教えない日本

    金融のメッカ、ウォール街に、昨年日系米国人がレストランをオープンした。開店以来大入り満員だという。オーナーのリチャードはまだ35歳だが、ニューヨークに4店舗を持ち、どこも順調だ。「パパからこっぴどく叱られたのが、きっかけだったよ」。フットボールで鍛えたたくましい二の腕をさすりながら照れ笑いをする。リ ...