世界で最も物議を醸す顔認識テクノロジー企業の1つとされる「Clearview AI」の共同創業者であるホアン・トン・ザットが、同社の取締役会から追放されたことがフォーブスの取材で明らかになった。
この動きは、同社が米国政府との大型契約の獲得や資金調達に苦戦する中、トン・ザットが昨年12月にCEOを退任し、社長に就任したことに続くものだ。彼はまた、社長職からも先月、退いていた。
Clearview AIの共同CEOハル・ランバートによると、トン・ザットの解任は、4月8日の株主の投票で決められたという。「我々は会社を別の方向に進めようとしている」と彼は語った。トン・ザットは、自身の解任を受けて、「私は予期せぬかたちで取締役会から追放された」と声明で述べている。
オーストラリア出身のソフトウェアエンジニアであるトン・ザットは、2017年にClearview AIを共同創業した。同社の初期投資家には、ピーター・ティールの他に、Uberやツイッターへの初期投資で知られるナヴァル・ラヴィカントが含まれており、評価額は2021年のピーク時に1億3000万ドル(約186億円)に達していた。
しかし、Clearview AIはSNSユーザー数十億人の個人データを同意を得ずに収集し、収益化したとして激しい非難を浴びていた。
そして、長年にわたる訴訟の末に同社は、そのテクノロジーの用途を政府に限定することに同意した。Clearview AIは、警察や裁判所などの法執行機関向けにテクノロジーを販売し、児童性犯罪者の特定や麻薬密売人の捜査で成果を上げたと度々アピールしていた。しかし、フォーブスによる以前の取材で、同社は黒字化できていないことが判明している。
トン・ザットは昨年、リスクの高い顧客にプライベート・クレジットを提供する投資会社Architect Capitalからのデット(借り入れ)による資金調達を検討していた。この調達は、実際には実現しなかったが、トン・ザットは先月、同社のCTO(最高技術責任者)に就任したと発表していた。
現在のClearview AIの経営は、ランバートともう1人の共同CEOであるリチャード・シュワルツの2人が担っている。同社は現在、トランプ政権の移民政策や防衛、国境警備関連の契約の獲得を目指している。共和党への多額の献金者であるランバートは以前、フォーブスの取材に、自身の会社での役割はトランプ政権との人脈の構築だと述べていた。
「我々は米国防総省とも話をしているし、国土安全保障省とも話をしている。また、複数の政府機関と活発な対話を行っている」と彼はいう。