米国のドナルド・トランプ政権が地球温暖化の原因となる化石燃料からの脱却を阻止しようとする中、2024年には世界の発電量のうち、再生可能エネルギーと原子力発電が40.9%を占めた。
エネルギーを専門とする英国のシンクタンク、エンバーの最新の報告書によると、2024年の再生可能エネルギー発電量は858テラワット時増加し、22年に記録した577テラワット時を49%上回った。特に太陽光発電の成長が著しく、発電量は前年比で29%増加した。エンバーは「過去20年連続で最も急速に成長した電力源」は太陽光だとした。
他方で、現時点では、低炭素電力に占める太陽光発電の割合はわずか6.9%に過ぎない。低炭素電力のうち、水力発電が14.3%で最も大きな割合を占め、次いで原子力発電が9%、風力発電が8.1%だった。低炭素発電に占める原子力の割合は、過去45年間で最低となった。
これとは対照的に、太陽光発電はわずか3年間で倍増し、昨年の発電量は2000テラワット時を超えた。エンバーのフィル・マクドナルド取締役は、世界的なエネルギー転換の原動力は太陽光発電だとした上で、「気候変動に関する誓約から退く国もあるようだが、再生可能エネルギーの経済的利点が世界的な流れに拍車をかけている」と指摘した。
世界の電力市場に変化をもたらす中国とインド
米政府が再生可能エネルギーからの撤退へかじを切る一方で、中国やインドといった新興国はクリーンエネルギーの導入に注力している。中国だけで、昨年の太陽光発電の世界全体の増加分の半分以上を占めた。同国は増加する電力需要の81%を低炭素電力で賄っている。インドの昨年の太陽光発電量も前年比で倍増し、新興国がいかに世界の電力情勢を変えつつあるかが示された。
オーストラリア・シドニー工科大学の施訓鵬教授は「世界の電力システムの未来は、アジアで形作られつつある」と指摘。電力需要を満たすために再生可能エネルギーへの依存度が高まっていることは、化石燃料の衰退と世界の電力業界の再構築を示していると説明した。
市場では再生可能エネルギーに追い風が
米国のトランプ政権による化石燃料推進の動きにもかかわらず、市場では引き続き再生可能エネルギーに追い風が吹いているようだ。太陽光発電と蓄電池のコスト低下のほか、人工知能(AI)やデータセンター、電気自動車(EV)の流行による技術業界からの需要増がクリーンエネルギーの成長を後押ししている。
世界再生可能エネルギー同盟のブルース・ダグラス最高経営責任者(CEO)は、次のように強調する。「地政学的にも経済的にも逆風が吹いている中、再生可能エネルギーの発電量は昨年、858テラワット時増加した。これは英国とフランスの年間電力消費量の合計を上回る規模だ」
今後の見通し
米政府が国内の再生可能エネルギーの導入に一時的な障壁を設けるかもしれないが、世界の低炭素電力の成長は向こう数年間、電力需要の増加を上回ると予測されている。この傾向は、特定の市場での政治的な障壁にかかわらず、化石燃料による発電が減少しつつあることを示唆している。
エンバーの報告書は、世界的な経済発展の主な原動力は、化石燃料ではなく低炭素発電技術だという現実を浮き彫りにした。他の国々が電源構成の脱炭素化への取り組みを積極的に進める中、この動向に逆行する米国は将来、クリーンエネルギー経済を主導する競争で後れを取る恐れもある。