一般的に膵臓は、がんが発生しても小さいうちは症状が出にくいため、早期の発見は簡単ではないといわれている。
しかし、今回、オレゴン健康科学大学(OHSU)の科学者たちは、驚くべき精度で膵臓がんを発見できる血液検査を考案した。 実際に、臨床試験において、PAC-MANNアッセイは早期膵臓がんの発見において精度85%という従来からは想像できない圧倒的な成果を残したのだ。
膵臓がん患者が5年以上生存する確率はわずか13%と驚くほど低い。 そんな難しい病気であるにもかかわらず、発生しても小さいうちは症状が出にくく、早期発見は非常に難しいものとなっている。そのため、定期的な検査が必要であり、その検査方法が課題となっていた。

膵臓の内部には膵管という網目状の膵液の通り道がある。膵臓がんでは、この膵管にがんが発症するケースがほとんどだ。今回考案された新しい血液検査は、この膵管にできるがんにアプローチするもので、膵管腺がん(PDAC)患者が高検出値を出しやすい、特異的なタンパク質「プロテアーゼ」の検出に特化させたものだ。 今回考案された血液検査PAC-MANNは、このタンパク質に蛍光色を示して反応するようにつくられており、検査をより迅速かつ信頼性の高いものにすることが期待されている。
この検査は実際に350人の患者を対象とした研究で、初期段階から後期段階までの全てのステージにおいて、膵管腺がん患者73%のがんに対して反応を示した。さらにがんでない被験者に関しては、その98%をがんでないと判定することに成功した。また、がんではないが、膵臓に疾患のある患者を膵臓がんだと誤認定することは一度もなく、その精度は100%となった。
現在、膵臓がん最良のバイオマーカー(※1)とされているCA19-9と組み合わせると、その精度はさらに向上し、ステージ1の膵管腺がんでは精度85%を、非患者の特定に関しては96%の精度を達成した。
(※1:血液、尿などの体液や組織に含まれるタンパク質、遺伝子など体内の物質を調べることで、病気の変化や治療に対する反応を見る客観的な指標)
PAC-MANNは、大量の血液サンプルを必要とする内視鏡超音波検査や、他のリキッドバイオプシー検査のような検査とは異なり、迅速かつ費用対効果が高く、侵襲性(※2)も低い。 わずか8マイクロリットルの血液で45分以内に結果が得られ、1サンプルあたりのコストはわずか1円未満である。
PAC-MANNはこれらのメリットにより、膵臓がんの家族歴や遺伝的素因を持つ人を含んだ高リスク者をスクリーニングする際に、手軽で有望なツールであるといえる。 手頃な価格であるだけでなく、手順も簡潔であるため、従来の診断ツールが利用できないことが多い農村部などの十分なサービスを受けられない地域で、早期発見の一助として貢献できるだろう。
(※2:検査や治療によって、患者を物理的に傷つけたり、患者の生活の質を低下させたりする必要があること)

PAC-MANNの開発は、がんの早期診断法を向上させようとする努力の一環である。現在、尿ベースのバイオマーカーや口腔マイクロバイオームの変化など、他の新たな手法も膵臓がん発見の精度をさらに高めるために研究されている。 今回発表されたこの画期的な血液検査が多くの患者の生存率を上げ、今後の医療界進歩の布石となる可能性は大きい。
(本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」の3月1日の記事から翻訳転載したものである)