贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。
THE GIFT #22
内藤祥平
日本農業 代表取締役CEO
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プラクルアンと呼ばれるタイのお守り。
守護神のモチーフには「願望成就」を意味する文字も刻まれている。
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タイ・チェンマイの山奥に、Boy Sayumpooという男がいる。長身で、映画『七人の侍』の三船敏郎のような風貌をしたナイスガイだ。
私は、日本の農産物を輸出する会社を経営している。日本の優良品種の現地生産にも取り組むなかで、チェンマイに農地を構え、いちごの実証栽培を始めた。彼との出会いはそのころだ。酒を酌み交わしていくなかで、真面目な話も馬鹿話もできる友人となった。
亜熱帯気候であるタイでのいちご生産は困難を極め、特に2020年ごろは事業を拡大し過ぎたこともあり個人的にも迷いが多かった。そんなとき、Boyさんがくれたのがタイのお守りだ。「持っていれば良いことがあるよ」。彼の温かくも気楽なその言葉には、妙な説得力があった。タイの「サバイサバイ(心地よい)」な空気感もここには宿っている気がして、不思議と前向きになれたのを覚えている。
普段は特別意識しないが、出張用のボストンバッグの奥には必ずこのお守りが入っている。何かあったときにふと見つけ「まぁ、なんとかなるか」と思えれば十分だ。そして、そんなときはまたBoyさんとタイのブランデーでも飲みながら、くだらない話をしたい。
ないとう・しょうへい◎1992年生まれ。慶應義塾大学法学部在学中に米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校農業経営学部に留学。その後、鹿児島とブラジルの農業法人で修行。大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社で農業関連の経営戦略にも従事。2016年に日本農業を設立しCEOに就任。