医学誌「米医師会紀要(JAMA)」は、胎児期から青年期までに高レベルの大気汚染や騒音公害にさらされると、精神障害やうつ病、不安症の発症率が高まるとの研究結果を掲載した。
英ブリストル大学のジョアン・ニューベリー博士らは、さまざまな形態の公害が精神衛生に与える影響を調べるため、1991~93年にかけて英南西部で生まれた9065人のデータを分析した。同博士らは追跡調査を実施し、対象者が13~24歳になるまでの間、大気汚染や騒音公害への暴露が精神障害とどのように関連しているのかを調査した。聞き取り調査では、13歳の時点では13.6%、18歳では9.2%、24歳では12.6%の参加者が精神疾患の既往歴を報告した。
研究では、微小粒子状物質(PM2.5)にさらされるとうつ病の発症率が高まり、特に妊娠中のPM2.5への暴露は胎児の精神状態にも影響することが明らかになった。論文の執筆者らは、「胎児期から幼児期にかけて脳が広範囲にわたって発達することや後成的な過程を考慮すると、幼少期の暴露は精神衛生に害を及ぼす可能性がある」と指摘。大気汚染は血液脳関門を傷つけ、神経炎症や酸化ストレスを促し、脳に直接侵入して組織を損傷するなど、多くの経路を通じて精神衛生に悪影響を及ぼすことが考えられると説明した。
騒音公害に関しては、幼少期や青少年期にさらされるとストレスの増加や睡眠の妨害によって不安が増大し、特に騒音が大きいと慢性的な生理的覚醒や内分泌の混乱につながることもある。騒音公害は認知にも影響を与えるほか、学童期の集中力を妨げることで不安を増大させる可能性もある。研究者らは「騒音公害が不安症と関連していることは興味深かったが、精神病やうつ病とは関連していなかった」と述べた。
その上で、次のように説明した。「幼少期や思春期、そして成人初期は精神疾患の発症を大きく左右する時期だ。世界全体では、精神疾患にかかった人の3分の2近くが25歳までに発症している。予防的な介入策を開発し、生涯にわたる精神衛生の軌道を改善する上で、早期のリスク因子を特定することは極めて重要な研究課題だ」「大気汚染は有毒ガスと粒子状物質(有機・無機の固体と液体のエアロゾル)から成り、その大半は人為的なものだ。大気汚染が精神衛生に及ぼす潜在的な影響を理解することは、精神衛生の悪化がもたらす人的・社会的費用や世界的な都市生活への移行、排気ガスによる気候変動という背景を考えると、ますます重要になってきている」
世界保健機関(WHO)によれば、世界中の子どもたちの93%が毎日有毒な空気を吸っている。同機関は、PM2.5などの大気汚染物質による急性下気道感染症が原因で2016年に死亡した子どもは60万人以上に上ったと推定している。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は2018年、次のように訴えた。「汚染された空気は数百万人もの子どもたちに害を与え、人生を台無しにしている。これは許しがたいことだ。すべての子どもが成長して自分の可能性を最大限に発揮できるよう、きれいな空気を吸えるようにすべきだ」