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モビリティ

2025.03.13 10:00

テスラが車載カメラのデータで「完全自動運転」を実現できない理由

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米電気自動車(EV)メーカー、テスラを率いるイーロン・マスクは、テスラの車両が収集する膨大なビデオデータのおかげで、将来的に同社が世界で最も価値のある人工知能(AI)企業になると主張している。しかし、そのデータは本当に競争上の優位性をもたらすのだろうか?

テスラがAI企業だと主張するマスクの自信の根拠は、世界中のテスラ車が走行することで蓄積されるペタバイト規模のビデオデータにある。理論的には、こうした巨大な実世界のデータがテスラをこの分野のリーダーに導く可能性がある。しかし、そのデータの中には、まったく役に立たないものが含まれている。

自動車の運転は、単純なパターン認識では対応しきれない多くの変数を伴う。道路状況や天候、工事、交通の流れ、周囲の車両の動きなど、考慮すべき要素は無数にある。これらを適切に処理し、突発的な事態に即座に対応することこそが、自動運転AIの核心となる。

しかし、膨大な量の走行ビデオを学習させても、AIが最も必要とする「事故につながる可能性のある異常なケース」への対応力の向上には、さほど役に立たない。

「テスラが言うような仕組みで運転を学んだAIは、通常の状況ではスムーズに運転できるが、少しでも異常な事態が発生すると対処できなくなる」と、ある自動運転テクノロジー企業のコンピューター科学者で幹部を務める人物(彼は、テスラを公に批判したくないため匿名を希望した)は、指摘した。

「しかも、AIは悪い運転習慣をそのまま学習してしまう。例えば、10人中9人が一時停止を無視するようなデータを学習すれば、そのAIも一時停止を無視することになる」

これが、テスラの競合がレーザー式のLiDARやレーダーなどの高度なセンサーをロボタクシーに活用する理由だ。これらの技術を使うことで、障害物を詳細な3D画像として把握できる。カメラのデータのみで自動運転を実現することも可能だが、ウェイモで研究責任者を務めるドラゴ・アンゲロフは、数年前の開発者会議で、「本当にカメラだけでやるなら、最高のカメラシステムが必要になる。それは非常に大きな賭けであり、極めてリスクが高い」と述べていた。

データの過大評価は禁物

メタの最高AI科学者であり、ニューヨーク大学のコンピューター科学教授でもあるヤン・ルカンも、テスラのデータが競争優位性をもたらすとは考えていない。

「データの影響は、過大評価されている。データ量を増やせば性能は向上するが、その効果は逓減する。データ量を2倍にしても、改善の度合いは限られており、人間の信頼性にはまだ程遠い」とルカンは言う。実際、どれだけ膨大なデータを持っていても、いまだにレベル5の完全な自動運転を達成した企業は存在しない。

「にもかかわらず、17歳の若者であれば20時間ほど練習すれば免許が取れる。この事実は、現在のAIの仕組みが、少量のデータや試行から学習する能力において、何か根本的な要素を欠いていることを示している」とルカンは続けた。

こうした課題があっても、テスラの株価に強気な投資家たちは、マスクのAI構想に賭け続けている。一部の株式アナリストは、マスクには、他の誰もが知らない何かがあると確信している。「我々は、自動運転テクノロジーだけで1兆ドル(約147兆円)の価値があると見ている。この仮説は、今後数年間で証明されるだろう」とウェブドッシュ証券のダン・アイブスはフォーブスに語った。

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編集=上田裕資

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