「イーロンは『完全自動運転』について、ほぼ10年にわたって誇張し続け、実際にはほとんど達成していない」とルカンは指摘する。「私たちの多くにとって、彼の主張はすべて虚偽か、自己欺瞞のいずれかに見える。この件について彼の言葉を今でも信じる人がいることが理解できない」
しかし、それでもマスクは新たな約束を繰り返し、熱心な支持者たちは彼に投資し続けている。彼は、昨年10月には、ロサンゼルスのユニバーサル・スタジオの撮影所で、テスラの「サイバーキャブ」のデモンストレーションを行った。しかし、閉鎖されたスタジオ内での走行にもかかわらず、テスラの技術者が低速で走るプロトタイプを監視し、場合によっては遠隔操作していたことが確認された。同様に、イベントで来場者に飲み物を提供したテスラのヒューマノイドロボット「オプティマス」も遠隔操作されていた。
「長期的には、オプティマスが10兆ドル(約1484兆円)以上の収益を生み出す可能性がある」と、マスクは決算説明会で語ったが、本当の試練は、6月に予定されているオースティンでのロボタクシーの試験運用だ。彼は、「オースティンで自動運転のライドシェアを有料で提供し、できるだけ早く他の都市にも展開するつもりだ」と語っている。
しかし、「自動運転の本当のブレイクスルーはテスラからは生まれないだろう。彼らには、自由に研究できる環境がなく、十分な才能を持った科学者がそもそもいない」とルカンは指摘する。
マスクは、米国でロボタクシー分野の先頭を走るウェイモに大きな差をつけられている。同社はすでに、フェニックスやサンフランシスコ、ロサンゼルス、オースティンで自動運転ライドシェアを展開しており、先月は週に20万件以上の有料乗車を記録していると発表した。これは、車両数がわずか700台程度であるにもかかわらずだ。
アルファベットはウェイモの収益を公表していないが、フォーブスの推計で2024年に400万回の乗車を提供し、1億ドル(約147億円)以上を売り上げたと見られている。
ウェイモの自動運転車も軽微な事故を起こしたことはあるが、これまでのところ致命的な事故にはつながっていない。一方で、テスラのオーナーたちはFSDモードでの危険な運転の映像を頻繁にネットに投稿しており、例えばニュージャージー州の高速道路出口で他の車両と衝突しそうになったり、中国で赤信号を無視したりする様子が記録されている。
最終的にマスクのAI戦略の成否は、それがテスラの将来にどれだけの財務的価値をもたらすかにかかっている。彼は、今後の数年で何兆ドルもの新たな収益を見込んでいる。メタのルカンは、「AIが動画から世界の仕組みを学ぶためには『パラダイムシフト』が必要であり、そのためには今後10年の研究を要する可能性がある」と指摘する。
「私の予想では、人間のような完全自動運転や実用的なヒューマノイドロボットが実現するのは、私たちがAIシステムに人間や動物と同じように、世界を理解し、学習させるための方法を見つけてからのことになる」とルカンは述べている。