モビリティ

2025.03.13 10:00

テスラが車載カメラのデータで「完全自動運転」を実現できない理由

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マスクは、かつて掲げていた「2030年までに年間2000万台のEVを販売する」という目標を放棄した後に、会社の未来をAIアプリケーションに託している。1月に彼は、オースティンの新データセンター「コルテックス」で、テスラが蓄積した膨大なデータを活用し、同社の「フル・セルフドライビング(FSD)」のソフトウェアを改良すると発表した。

ただし、このソフトウェアは、完全自動運転を謳うにもかかわらず、常に人間の監視が必要だ。このAIソフトウェアとテスラによる従来の「オートパイロット」システムには、確かに改善の余地がある。というのも、FSDとオートパイロットは、これまで世界で52件の致命的な事故に関与しているからだ。

ゴミを食べればゴミを吐く

データのラベルづけ作業を自動化するソフトウェアを開発するSnorkel AI(シュノーケルAI)でCEOを務めるアレックス・ラトナーは、「ユニークなデータフィードにアクセスできることは、確かに一定の優位性をもたらす」と語る。

しかし、ウェイモに勤務する家族を持つラトナーは、『ガベージ・イン、ガベージ・アウト(ゴミを食べるとゴミを吐き出す)』という古くからのコンピュータサイエンス分野の格言がここでも当てはまると述べている。

「学習データの選別において、優れたドライバーからの映像と、悪いドライバーからの映像をどう区別するか? これは極めて重要な問題だ。なぜなら、こうしたモデルは、多くの場合、最も一般的な行動パターンを学習するからだ」と彼は続けた。

ウェイモやZoox(ズークス)、Aurora(オーロラ)、Waabi(ワービ)を含む自動運転分野の有力企業は、自動運転AIの安全性を高めるために長年にわたりデータを精査し、極端な状況や危険な道路環境における適切な対応を、高度なシミュレーションと実世界での厳密なテストを通じて習得しようとしてきた。対照的に、テスラのデータは、こうした稀なケースを網羅しているとは限らない。

「学習すべきすべての異常なケースが、十分な頻度でデータに含まれているという保証はない」と語るのは、ジョージ・メイソン大学の教授で、自動運転車技術について米国連邦およびカリフォルニア州の規制当局に助言を行ってきたミッシー・カミングスだ。この問題は、例えばAIが道路上の状況を誤認し、突如として急ブレーキをかける「ファントムブレーキング」のような現象を解決することを困難にしている。

また、「無限に続く車載ビデオの中から、AIの訓練に最も重要なデータを見つけ出すことは、極めて難しい」と、テスラのアプローチを知る匿名の自動運転の研究者は語る。「テスラは、膨大なデータを持っているが、学習すべき重要な部分をどうやって選別しているのかが不明だ」とその人物は指摘した。

このプロセスについて、テスラは公に説明しておらず、また他の主要テック企業が頻繁に研究論文を発表する研究コミュニティにも積極的に関与していない。

「テスラは、AIの研究開発の場にほとんど登場しないし、学会や論文発表の場にも姿を見せない。まるで、存在していないかのようだ」と、ルカンは語る。

マスクが繰り返す大言壮語

テスラの自動運転に関する実績は、繰り返しマスクが掲げた目標を下回ってきた。マスクは、2016年に「テスラ車が人の手を借りずにアメリカを横断できるようになる」と約束したが、いまだに実現していない。彼は、2019年には「2020年までに100万台のロボタクシーを走らせる」と宣言したが、この目標もまったく実現していない。

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編集=上田裕資

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