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経営・戦略

2025.03.14 13:30

ゲームチェンジャーが身につけるべき「経営の武器」

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Web3をはじめ、技術の進化を背景にさまざまなサービスが生まれている。新たな挑戦を成功に導くために、知っておくべき3つのキーワードを紹介する。


インパクトを創出したい起業家やビジネスパーソンは、どのような知見を備えるべきなのか。「共創的な社会を実現する実践的なメカニズムの構築」を研究方針に掲げる東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の西野成昭に、今知っておくべきアカデミアのキーワードを聞いた。

──起業家を含むビジネスパーソンは経済学を学ぶべきだという声があります。

西野成昭(以下、西野経済学の基本を学ぶことは大前提だ。しかし、さまざまな産業が複雑に絡み合う現代では、一般化された形式で記述された経済理論を単純にそのまま現実に当てはめるのは難しい。観察される経済現象を説明する理論が従来の経済学だとすると、要求を満たす複数の解候補から最適化などを通じて望ましい解を導き出すというアプローチ、すなわち「逆問題」に取り組む必要がある。

特に今、考えるべきはサービスの設計だ。AIをはじめ、製品をサービスと結びつけて価値を生み出すのが今のビジネスの流れだ。サービス業はGDPの7割以上を占めるにもかかわらず、それらの多くは経験と勘で行われている。それでは成功の可能性は低い。経済発展のためにも、科学的な根拠に基づいてビジネスや活動を手がける必要がある。

──成功の可能性を高めるために、知っておくべきアカデミアのキーワードは。

西野:ひとつは「メカニズムデザイン」だ。メカニズムデザインは経済学のゲーム理論の枠組みを応用したもので、個々のプレイヤーは合理的に動くという考え方を前提に、社会全体として望ましい結論をもたらすための制度やルールの設計を目指す。

「サービスを設計する」とはルールを決めることにほかならない。製品の設計と違って、サービスは提供者と利用者間という「人間系」のプロセスを設計する必要があるため、社会科学分野の知見は有用だ。
 
とはいえ、サービスは業種や業態によってそれぞれ独自の性質をもつ。そこで必要になるのが「シミュレーション」だ。製造業ではシミュレーションの技術がかなり進化している。構造物を設計する場合、多くの企業が、製品を市場に投入する前に「有限要素法」を用いて構造物の耐久性や安全性を確認している。構造物を小さな要素に分割し、それらの要素の性質を数値化して計算を行い、全体の挙動を解析するのだ。

一方、サービス業界では、市場にローンチする前に科学的に検証し、最適なサービスの構造を導き出すという点が不十分だ。では、具体的にどのような手法が求められるのか。ここで登場するのが「経済実験」だ。

経済実験の方法は、2002年にノーベル経済学賞を受賞したバーノン・スミスによって確立された。仮想的な経済環境を実験室に構築し、実際の人間を被験者としてその振る舞いを観察し、経済理論が実際の人間でも成立するかを検証する。設計において実験は欠かせない。設計したサービスメカニズムが不適切だったり、思いがけない結果を導いたりすれば再設計し、実験により検証する必要がある。実際に人を呼んで実験をするので手間がかかるが、サービスの設計からビジネスを開始するまでの間に仮想実験のプロセスを踏むことで、ビジネスの成功確率を高めることができると考えている。

──マーケティング調査との違いは。

西野:実社会ではさまざまなアクターが複雑に絡み合ってダイナミズムが起きる。どのような相互作用が起きるのかは、仮想経済環境をつくって動きを見ないとわからない。消費者の声を基に分析する従来のマーケティングと経済実験は別物だと考えている。

──メカニズムデザインや経済実験をビジネスの実践に落とし込むうえでの課題は。

西野:日本は、ものづくりにはお金や時間を投入するが、サービスを研究開発するという発想があまりない。加えて、特に大企業ではR&D部門と事業部門の連携がうまくいかず、産学共同研究をしても社会実装や事業化に至ることが少ない。縦割り文化がサービス開発の足かせになっていると感じる。
 
海外に目を向けると、ゲーム理論をはじめ経済学の理論をベースにビジネスやサービスを展開しようという試みが進んでいる。例えば、米国のテック関連企業ではトップクラスの経済学者を引き抜いて、アカデミアの知見をサービス開発に生かしていると聞く。日本でも、それぞれの知見や課題の共有を含め、より積極的な産学連携が求められる。


西野成昭◎東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。博士(工学)。東京大学助手(助教)、東京大学准教授などを経て現職。専門はサービス工学、実験経済学、ゲーム理論、マルチエージェントシステム、メカニズムデザイン、共創工学。

文=瀬戸久美子

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