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国内

2025.03.12 13:30

世界が注目する日本の棚田:地域発インパクトの可能性

インパクト・エコノミーの醸成に必要なのは世界を舞台にした巨大なインパクトだけではない。デジタル行財政改革会議事務局の参事官・小林剛也が「ローカル」の可能性を説明する。


2023年秋から、内閣官房・デジタル行財政改革会議事務局で勤務している。人口減少、高齢化が進行するなか、デジタル技術などを用いながら公共・準公共サービスを維持し、社会変革を促すことが主なミッションだ。その一環として、社会・環境課題の解決に向けた、インパクトスタートアップと行政の共創の仕組みを模索してきた。24年2月以降は、北海道から沖縄まで、デジタル行財政改革スタートアップ全国行脚を実施。東京都とコラボしたイベントや、7月からは全国各地を結んだオンライン実務者会合もスタート。インパクトスタートアップやインパクト分野の投資家、NPO、自治体職員、地場企業などと数多く対話してきた。こうした対話から着想した「ローカルインパクト」のコンセプトについて、以下見ていくこととしたい。(本記事での意見は私見であり、筆者が属する組織を代表するものではない)。

「ローカルインパクト」とは、「一定の地理的範囲(=地域)において、地域内外の関係者と新結合しながら、脱炭素、生物多様性、ダイバーシティ、少子高齢化、貧困・孤立等を含む幅広い社会・環境的課題に取り組む活動から得られた、ポジティブな効果」と私なりに定義する。一定の地理的範囲を単位としてインパクトをとらえる視点である。
 
例えば、スタートアップ全国行脚の「九州場所」では、熊本県合志市の地域ベンチャーのハッピーブレイン社長、池田竜太と出会った。高齢者や障がい者も、そうでない人々も「ごちゃまぜの社会を作る」という企業理念に基づき、eスポーツを介護等に取り入れる。地域のUDe-スポーツ協会と同社が開発した「UDe-スポーツ」のゲームは、市内外の介護事業所や公民館等で導入され、例えば、高齢者がオンライン上でeスポーツの「ダルマ落とし」ゲームのトーナメントを競う。80代、90代の参加者たちが、オンライン上で他の地区や他県の対戦チームとeスポーツで競い合い、歓声を挙げながら結果に一喜一憂する様子がそこにある。高齢者の身体能力の維持・向上、ゲームへの参加を通じた社会的包摂を促進する事業だ。
 
一般に、インパクト分野の事業では、公共・準公共部門の関係者との複雑な交渉や、地域ごとのルール・慣習の違い等の壁が立ちはだかる。その点本件では、地元の合志市役所の職員がサポートに入り、同サービスを展開する上で、介護事業所や他地域の企業等との折衝に当たる。ローカルインパクトを高めるためには、公共調達や信用力の供与、関係者との調整や情報提供といった、公共部門における補助金以外の価値提供も有効であると感じた。

スタートアップだけでなく、地場企業も、ローカルインパクトを高めるべく奮闘中だ。小田原箱根商工会議所では、東日本大震災後の電力不足を契機として、地域内での省エネや、地域内の中小企業の出資による新電力会社(「ほうとくエネルギー」と「湘南電力」)を通じたエネルギー地域循環の取組みを進めてきた。

ただ、同会議所会頭の鈴木悌介によれば、地域の中小企業経営者は経営上の諸課題で頭がいっぱいであり、「儲かる」もしくは「やらなければならない」のどちらかでないと、実際の行動には結びつかない現実もあるという。

こうした状況を打開するため、商工会議所内にタスクフォースを設置。全国の中小企業経営者から成る「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」と連携しながら省エネ診断を進めてきた。特に、企業内のキーパーソンへのプレゼンや説得は、地場企業や金融機関・支援機関の熱意あるタスクフォースのメンバーが協力して実施した。

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文=小林剛也 イラストレーション=ティム・ボーラス

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