サムスンは、アップルのApple Vision Proに似た高価な複合現実(XR)ヘッドセットを開発中だが、この製品はニッチな市場向けのものになる見通しだ。
韓国メディアのBusiness Postによると、サムスンはこのデバイスの年間生産台数を10万台と見積もっているが、この生産ボリュームは、失敗と見なされることが多いApple Vision Proと比較しても低い水準だ。Vision Proの2024年における販売台数は、42万台だったと報じられている。
ここで浮かぶのは、サムスンがなぜ、このような販売台数が限られるデバイスへの多大な投資を続けるのかという疑問だ。この製品が同社の収益にもたらす影響は、わずかなものになるはずだ。
実のところ、サムスンには、それでもこのデバイスの開発を進める理由がいくつかある。
まず、このヘッドセットは「Android XR」と呼ばれるXR向けAndroid OSを世に広めるための製品に位置づけられていることが挙げられる。サムスンとグーグルの共同プロジェクトの一環とされるこのOSは、将来的にさまざまな種類のVRヘッドセットに採用されると考えられている。グーグルは、ウェアラブルデバイス向けOS「Wear OS」の立て直しにおいて、サムスンのGalaxy Watchシリーズとの連携で成功させている。
さらに、サムスンのXRヘッドセットは、同社のディスプレイ部門のサムスンディスプレイに大きな利益をもたらす可能性がある。アップルのVision Proは、ソニー製のマイクロOLEDパネルを採用している。そのため、サムスンがマイクロOLEDの生産プロセスを本格的に発展させ、歩留まりを高くするためには、大規模な製造が必要になる。
サムスンのOLEDの歴史
サムスンには、かつてOLED市場を放棄して競合に市場を奪われた過去があり、同社は同じ失敗を繰り返したくないという考えがある。同社は、2013年にOLEDテレビを一度だけ製造したが、その後はこの技術を放棄し、代わりにLCDをベースとしたテレビに注力した。そして、量子ドットパネル技術を採用して画質を向上させる方向へと進んだ。
当時のサムスン製「RGB方式」のOLEDテレビは画質は優れていたが、赤・緑・青それぞれのサブピクセルの劣化速度が均一ではないという問題が生じたために、この市場から撤退した。一方、競合のLGは、「RGBW」と呼ばれる白のサブピクセルを追加した方式を採用することでこの問題を解決し、OLEDテレビ市場で生き残ってきた。
マイクロOLEDは、まったく新たな製造上の課題をサムスンにもたらすことになる。これにより同社のXRヘッドセットは、Apple Vision Proと同様の高価な製品になると考えられる。
韓国メディアThe Elecによると、サムスンのXRヘッドセットはApple Vision Proよりもさらに高い画素密度を実現することが期待されている。Vision Proに搭載されたマイクロOLEDディスプレイの解像度は、3400ppiだが、サムスンのヘッドセットは3800ppiになると報じられている。
参考までに、アップルが2010年のiPhone 4で初めて採用したRetinaディスプレイの画素密度は326ppiだった。そう考えると、マイクロOLEDディスプレイの製造にいかに精密な作業が要求されるかがわかるだろう。
昨年末に発表されたサムスンのXRヘッドセットは、2025年の後半に発売予定とされている。