スポーツ

2025.03.05 14:15

「富裕層のスポーツ」フェンシング、子に習わせておくと有利か? コストは?

2024年7月29日、パリオリンピックでオレナ・クラバツカ(ウクライナ)に勝利し、喜ぶ日本チームの江村美咲

2024年7月29日、パリオリンピックでオレナ・クラバツカ(ウクライナ)に勝利し、喜ぶ日本チームの江村美咲

昨今、ヨーロッパのスポーツ、フェンシングが富裕層の間で新たな人気局面を迎えつつあるという噂を聞いたことがあるだろうか。

フェンシングと聞いて中世ヨーロッパを思い浮かべる人は多いだろうが、最近ではその古色蒼然たるイメージが一新しているようだ。超人気映画シリーズ「Lord of the Rings」や「スター・ウォーズ」でもアクションシーンの土台として使われていて、その華麗にして繊細な動きは新たにこのスポーツへの同時代人たちの憧れを生んでいる。

ただ、フェンシング自体の人気度が高まる中、膨大な費用と時間により、富裕層に限定されたスポーツへと発展している傾向が見られることも否めない。未だ比較的アスリートが少ない競技という希少価値も手伝って、大学への出願などで有利に働くことが多くあるとの傾向もあるらしい。

ここではその長所とコストについて解説したい。


コストはどれくらい覚悟すべきか?

まず大前提として、フェンシングを始めるには様々な装具を用意する必要がある。fencertips.comによるとその予算は初心者用装具でも10万円から25万円はかかるようだ。

Getty Images

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fencertips.comがフェンシング装具として予算に見込んだものは以下の通りである:

・面(マスク)

・プラストロン(防具の一部、肩や胸を守るインナーガード)

・ジャケット(フェンシング用の上着)

・ブリーチーズ(フェンシング用のズボン)

・ソックス(フェンシング用の長い靴下)

・グローブ(手袋)

・剣(エペ、フルーレ、サーブルなどのフェンシング用の剣)

・フェンシングバッグ(道具を入れるバッグ)

残念ながら、フェンシングを長期的に続けたい者にはもっと予算が必要なようだ。アマチュアレベル以上のフェンシングにはクラブ費やレッスン代(クラブ費:年間6万円〜10万円、レッスン代:1時間あたり2万円弱)、そして国内のフェンシング統括団体(NGB)への加入が必要になることが多い。

フェンシングを始める上では、さまざまな防具が必要となる(Getty Images)

フェンシングを始める上では、さまざまな防具が必要となる(Getty Images)

イギリスの「British Fencing」やアメリカの「USA Fencing」といったNGBは、会員向けに保険を提供していて、フェンシング中の事故やケガの治療費などをカバーしてくれるようだ。これがあるから、クラブ側も安心して練習や試合を進められる、とのこと。

NGBの会員資格は所属クラブと紐づく仕組みになっていて、基本的に他のクラブへ移る場合は再登録が必要になる。長期的にフェンシングを続けたいならばNGBの加入(年間3000〜10000円程度)はほぼマストといえる。プランは初心者向けから競技者向けまで段階があって、保険内容もそれぞれ違うようだ。

結論、フェンシングにかかる費用は選手のレベルや本気度に大きく左右されるようだ。だが、最初に揃えなければならない装具はレベルに関係なく皆が負担しなければいけない。フェンシングを遊び程度で始めたい者にとっては最低でも15万円、選手として本気で追求したい者だと初期費用の25万円弱。クラブ、レッスン、そしてNGBの費用として年間50万ほどは必要なようだ。

なぜ今「フェンシング」か?

昨年のオリンピックでフェンシング日本代表が5つのメダル(そのうち2つが金メダル)を獲得したことは記憶に新しい。そして、この快挙が日本国内でのフェンシングの知名度を大きく上げたことは言うまでもない。

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2024年8月03日、日本チームの(左から)江村美咲、尾崎里紗、福島志穂美、高島梨紗らがパリオリンピックで銅メダルを獲得して喜ぶ(Getty Images)

米国フェンシング協会のデータによれば、現在フェンシングを嗜んでいるアスリートの大半が20歳以下であるという。フェンシングを新しく始めたいと思う子どもが増える中、実際に始めるにいたるのは少数なのかもしれない。だがその反面、今フェンシング選手の人口が少ないということは、選手としての希少価値があったり、プロを目指すにあたっての競争が他競技ほど激しくないともいえる。そのため、今、選手の人口が少ないうちに、先陣を切ってフェンシングを始める利点はたしかにありそうだ。

フェンシングは技術や体力だけではなく、集中力や礼儀も鍛えられるスポーツだ。必要な準備やコストを把握したうえで始めれば、子どもにとって良い挑戦になるだろう。

また、比較的アスリートが少ない競技であるゆえ、冒頭で述べたとおり、大学への出願などで有利に働くことが多くあるとのこと。最近、米国各地の主な大学はフェンシング部を構えているようだ。そのため、学生アスリートとして一流大学へ入学する実例もあるようだ、

CBC Newsは米国のノートルダム大学にフェンシングで全額奨学金を得て入学した生徒の事例も挙げている。「自分はフェンシングを通してたくさんの機会に恵まれたし、フェンシングを最高のスポーツだと思っている」と、取材を受けたノートルダム生は述べている。

「フェンシングを学ばせたい親」の強い味方!

子どもにフェンシングをさせようと踏み切ることを躊躇してしまう理由は様々あるだろうが、大きな要素として「情報不足」があることは否めない。フェンシングはスポーツではあるが、乗馬などと同様に、未だ主として上流階級が嗜む現状がある。

そんな中、子どもにフェンシングを学ばせたい親にとってもの頼もしい味方がある。「Fencingparents.org」だ。

複雑な制度から多くの装具まで、理解が難しいフェンシング競技だが、ブログの著者であるメイヤー・ドンナ氏はそれを、フェンシングを始める方法からフェンシング試合のスケジュール管理方法まで、わかりやすく解説している。

コロンビアビジネススクール出身のメイヤー氏は投資銀行に長く勤めた後、長く嗜んだフェンシングをより多くの人に広めようとブログを始めたようだ。

「フェンシングはお金がかかるスポーツです」とメイヤー氏は書く。「その分、しっかりと考えて行動し、子どもが成長しながら楽しめるように判断していくことが大事です」。


また、自身が一流大学を卒業しているメイヤー氏は、フェンシングを大学進学にどう活かせるか、も熟知しているようだ。「アメリカの様々な一流大学がフェンシングアスリートの合格にどのような基準を使うか」のレポートなども公開してくれている。男女比や、「フェンシング」生かして合格したアスリートの高校の成績までをデータ化しており、フェンシングへの入門情報だけでなく、「スポーツとしてのフェンシング」の応用方法まで公開している。

この記事を読んで子どもにフェンシングを習わせたいと思った読者諸氏にとって、「fencingparents.org」は最初の一歩を踏み出すための大いなる指針になりそうだ。ちなみに本ウェブサイトは英語だが、ぜひ、日本語に翻訳して役立てて欲しい。

文=坂口オスウェル大芽 編集=石井節子

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