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経営・戦略

2025.02.17 13:30

2025年はパーパスを実践する「エシックス経営」元年に

イラストレーション=ムティ

イラストレーション=ムティ

2021年に急速に広がったパーパス経営。日本におけるパーパス浸透の第一人者である名和高司は現場で見えてきた課題から、倫理を重視した「エシックス経営」の重要性を説く。


「2025年は、従業員がパーパスをより自分ごと化し、日々実践するエシックス経営が重要になるでしょう」

コロナ禍真っ只なかの21年、多くの経営者が、利益追求だけでなく社会貢献も意識したパーパスを掲げ始めた。しかし実際に経済価値を高められたのはごく一部の企業のみ。不祥事も後を絶たず、企業倫理がますます問われている。名和高司は「高尚なパーパスを額縁に飾っておくだけで、実践が伴っていないから」と指摘する。

世界を見ても、30年までの達成目標であるSDGsは多くの項目で早くも黄色信号となり、不安定な世界情勢が重なって、人類は大きな試練に直面している。そんななか、英米でも企業倫理の重要性が再認識されるようになった。

「企業本来の正しい経営のあり方が問われる今、パーパスだけでは足りないことに気づかされました。パーパス、プリンシプル(倫理を基軸とした行動原理)、プラクティス(従業員による実践)の3つのPが揃ってはじめて、パーパス経営を実践できるのです」

こうした現状を踏まえ、名和は新たに「エシックス経営」の必要性を唱える。ポイントは主にふたつ。ひとつは、従業員もパーパスを実践できるように、パーパスをさらに噛み砕いた「行動原理」を明文化すること。ふたつ目は、行動原理に「企業倫理」を据えることである。

名和がエシックス経営の実践例として挙げるのがジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)。1943年に起案された「我が信条(Our Credo)」という行動原理には、同社が果たすべき4つの社会的責任とその対象が示されている。第一の責任は、患者や医師、看護師といった「顧客」への責任、続く第二の責任は「従業員」、第三の責任は「地域社会」、そして第四は「株主」に対する責任を謳っている。

同社はこの80年間、利益優先の風潮とは一線を画し、経営者から現場の社員に至るまで、この信条を重要な局面での判断軸としてきた。その象徴的な事例が、1982年にシカゴ近郊で起きた「タイレノール事件」だ。同社商品である解熱鎮痛剤「タイレノール」を服用した8人が死亡した薬物事件である。J&Jは、事件発覚後直ちにタイレノールの製造・販売を中止し、全品を回収したほか、第三者による調査も実施。その結果、悪意ある犯人がタイレノールのカプセルに毒を混入させたことが原因だとわかった。

名和はこの迅速さは「我が信条」によるものものだ、と指摘する。「この信条に照らし合わせれば、正しい行動を取ることには何の躊躇もなかったのでしょう」。原因判明後、タイレノールの製造・販売は再開され、事件発生後2カ月で売り上げの80%が回復したという。こうして「我が信条」によって信頼あるブランドが構築されたことで、現在までの安定した成長にもつながっている。
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文=宮田浩平 イラストレーション=ムティ

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