ただ、発表後に繰り上げ合格があるため、合格者数確定までは約2週間かかる。速報値がぬか喜びにならないか、気が気でなかったのだ。
「私たちの通知表はふたつ。ひとつは売り上げや利益、もうひとつは難関校の合格者数で、後者はその年の入塾者数につながっていく。例年、合格者数が固まるまでは本当に落ち着かないんです」
最終的にどうだったか。早稲アカの男女御三家合格者数は前年468人から545人に。SAPIXとの差は461人から323人に縮まった。大躍進だ。
背景にあるのはコロナ禍だ。山本の社長就任は20年3月。就任後すぐ学校は一斉休校になり、塾も対面授業の中止を余儀なくされた。多くの塾が成り行きを見守るなか、山本は「学びを止めてはいけない」と即座にオンライン授業の導入を決断。4月にはZoomを利用した授業を開始した。
緊急事態宣言が明けた後も、対面とオンラインを併用する「DUAL形式」で授業を提供。これらの施策がコロナに不安を抱く保護者に支持された。
「それまでならお子さんをSAPIXさんに通わせていた保護者が、私たちを選んでくれた。このときの小3だった子が24年受験を迎えた」
ただ、ダイヤの原石も磨かなければただの石である。24年の躍進は、入塾後の教育にも何か秘密があるはずだ。そう問うと、山本は「マニュアル整備が実を結んだ」と答えた。
「学習塾には、子どもの成績を上げる“本来価値”と、子どもを自ら努力して学ぶ人へと育てる“本質価値”が求められます。これまで本来価値は教室でも追求してきました。一方、早稲アカには『本気でやる子を育てる』という教育理念があり、それぞれが実践していたものの、マニュアルに落とし込めていなかった。成績向上だけを追求すると、叱って勉強させるダークサイドのアプローチに陥りがちです。マニュアルを整えて講師が誰でも本質価値を追求できるようにしたことで、授業品質が向上。それが合格者増に結びついた」