歴史は「統合」と「分裂」を周期的に繰り返すと私は考えています。なぜそんな真逆のことを人間が求めるのか? その背景に、私は「富の偏在」という問題が生じるからだと思っています。経済に歪みが生じて、統合と分裂を40年周期くらいで繰り返す。
例えば、明治維新という統合です。幕末、石高制度による統治は破綻して、多くの藩が財政難に陥っていました。そのため、明治政府にすんなりと版籍奉還をして、統治を委ねます。
1945年も統合の年です。ブレトンウッズ会議でIMF(国際通貨基金)と世界銀行が設立されます。第二次世界大戦前のポンドをベースとする金本位制崩壊の経済混乱を避ける目的で、米ドルを基軸通貨としたシステムが構築されました。ブレトンウッズ体制は1971年にニクソンショックで崩壊するまで続きます。石高制度もブレトンウッズ体制も、多くの「統合」は合理的なシステムとして最初は機能して繁栄をもたらします。が、富める人が登場する一方で、もたざる人々の間では「腹が減った、食えない」という歪みを生み、人々は破壊と分裂を求めるのです。イデオロギーによって統合された東西陣営も、経済格差が一因となり、ベルリンの壁を崩壊させます。
1980年代、私はニューヨークで働いていました。トランプタワーには何度も行きましたし、当時からドナルド・トランプはテレビに出演する有名人でした。しかし、彼を大統領にしたいと願う人はいなかったと思います。では、何が変わったのか。
最も大きな変化が、「富の偏在」の驚異的な拡大です。わずか1%の超富裕層がアメリカの所得全体の20%以上を占め、逆に、下位50%の人が占める所得の割合は20%から10%程度にまで下がっています。アメリカ人の半分が貧しくなっている理由は何でしょうか。
ひとつは産業構造の変化です。戦後、アメリカは自動車製造など工業化を推し進めて、同時期に世界経済の覇権もイギリスからアメリカへと移ります。しかし、その後、製造業は日本や中国に移っていきます。アメリカはコストがかかる「川下」の製造業を切り捨てて、付加価値をつける「川上」のソフトウェア開発などに舵を切っていきます。この付加価値部分で今度は世界経済の覇権をがっちりと握ります。その象徴が「GAFAM」です。
ところが、この川上産業は収益力との対比で見ると、雇用をほとんど創出しません。そしてソフト路線を推し進めた結果として、アメリカでは製造業が衰退し、一部の超富裕層だけが豊かになったのです。