宇宙

2024.12.06 10:30

木星の極域に繰り返し出現する「地球サイズの暗斑」の正体、HST画像分析

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影し、人工的に着色された木星の紫外線画像。画像中央やや右に青く見えている大赤斑に加えて、木星の南極域を覆う茶色に着色された靄の中に、もう1つの特徴的な楕円形の領域(暗斑)がある(Troy Tsubota and Michael Wong, UC Berkeley)

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影し、人工的に着色された木星の紫外線画像。画像中央やや右に青く見えている大赤斑に加えて、木星の南極域を覆う茶色に着色された靄の中に、もう1つの特徴的な楕円形の領域(暗斑)がある(Troy Tsubota and Michael Wong, UC Berkeley)

木星は、表面に特徴的な大気の巨大渦「大赤斑」があることで有名だが、大気にまつわる謎がもう1つある。それは、地球サイズの巨大な、暗い楕円形の領域(暗斑)が、南北の極域に出現することだ。ランダムに現れては消えるように見え、紫外線でのみ確認されているこの暗斑は、竜巻に似た現象によって発生している可能性がある。

学術誌Nature Astronomyに11月26日付で論文が掲載された、NASAが支援する今回の最新研究によると、木星の南北両極域で散発的に出現するこの暗斑は、竜巻に類似していて、木星のオーロラ(北極光や南極光)のはるか下方に大気中の靄(エアロゾル)が濃く集まった領域を形成することが明らかになった。

磁気の謎

木星の南極域では、暗斑は頻繁に見られるが、常時あるわけではない。約1カ月間で形成され、数週間以内に消滅する。NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いた太陽系の巨大惑星の観測プロジェクト「外惑星大気過去データ蓄積(OPAL)」の観測データでは、2015年~2022年の期間のうちの4分の3に南極域の暗斑が現れている。一方、木星の北極近くでは暗斑の出現頻度がはるかに稀で、2015年~2022年の画像8枚のうちの1枚にしか現れていない。暗斑は周囲の大気よりも多くの紫外線を吸収するため、紫外線画像では暗く見える。

木星の北極(上枠内)と南極(下)に現れるオーロラを捉えた合成画像。NASAハッブル宇宙望遠鏡の紫外線画像(枠内)を広視野惑星カメラ2で撮影した木星全体の画像と合成して作成(JPL/NASA/STScI)

木星の北極(上枠内)と南極(下)に現れるオーロラを捉えた合成画像。NASAハッブル宇宙望遠鏡の紫外線画像(枠内)を広視野惑星カメラ2で撮影した木星全体の画像と合成して作成(JPL/NASA/STScI)

暗斑

木星で暗斑が見つかったのは、これが初めてではない。1990年代末にはHST、2000年にはNASAの土星探査機カッシーニによって発見されていたものの、これまでほとんど研究対象として取り上げられてこなかった。今回の研究成果をまとめた論文の筆頭執筆者で、米カリフォルニア大学バークレー校で物理学、数学、情報科学の3科目を専攻する学部生のトロイ・ツボタは「最初の2カ月で、OPALの画像がまるで宝の山のようだと気付いた」と説明している。「暗斑が現れる原因に関して(中略)実際に何らかの優れた科学研究ができるとわかったのは、まさにこの時だ」

回転する渦

木星の大気には、高速で回転している渦がある。木星の強力な磁場の磁力線が、大気上層の荷電粒子および木星の衛星イオに由来するプラズマの両方と相互作用することで、この渦が発生する。イオは太陽系で最も火山活動が活発な天体だ。渦は木星大気の上層部から伸びており、より深部に伸びるにつれて弱まるが、渦が引き起こす乱流によって成層圏が掻き回されることで、靄が濃く集まった領域が形成される。

磁場と大気動力学

論文の共同執筆者で、カリフォルニア大バークレー校の宇宙科学研究所(SSL)の惑星科学者マイケル・ウォンは「大気の異なる層の間の関連を調べることは、太陽系外惑星であれ木星であれ地球であれ、あらゆる惑星について非常に重要になる」と指摘する。「今回の研究では、木星系全体におけるあらゆる現象を結び付けているプロセスの存在を示す証拠を目の当たりにしている」

木星の複雑な磁場と大気動力学がどのように作用しているかをより詳細に知ることは、地球と系外惑星の両方の気象系を理解するための知見を惑星科学者に提供すると考えられる。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔

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