1957年、愛知県豊橋市牛川町の石灰岩採掘場でニホンムカシジカやタヌキなどの動物の骨といっしょに人骨の化石と思われるものが発見された。東京大学の鈴木尚教授は、1年半かけてこれを鑑定し、今から5万年から8万年前の旧石器時代に存在した人類の骨であると発表した。それが、日本最古の「牛川人」として知られるようになり、牛川町には「牛川原人之碑」という石碑も建てられた。
発見されたのは左上腕骨の破片だけで、そこから小柄な女性と判断された。1959年には大腿骨頭とされる化石も発見され、それは男性のものとされた。年代を詳しく調べると、原人ではなく旧人だということになったが、肝心な頭蓋骨が見つかっていない。
NSGグループ新潟医療福祉大学の佐宗亜衣子助教、東京大学の諏訪元特任教授らによる研究チームは、クマの骨との形状の比較、CT撮影、断面画像3次元モデルなどを用いて比較解析にもとづく形態学的評価を実施した結果、これらはクマの橈骨(前腕の骨)と大腿骨頭だと特定した。
こうして「牛川人」は幻の旧人となり、日本最古の人骨化石は静岡県の根堅洞窟で発見された浜北人骨にそのタイトルが奪われることになったが、この「牛川人骨」の発見は、日本の古人類調査の発展に貢献したことに変わりはなく、これらの骨も後期更新世の動物の貴重な資料であることのことだ。
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