部分でなく全体を見る。ランゲで知るイタリア「デザイン文化」の強さ

イタリア・ピエモンテ州のランゲに構えるGATE421の外観

ランゲという地域がイタリア北西部のピエモンテ州にあります。バローロ、バルバレスコといったワインの産地、ライフスタイルの変化の導火線となったスローフード運動の拠点、名産である白トリフをコアにした料理文化。これらがランゲを世界に知らしめるに貢献しています。

中核都市であるアルバは人口3万人ながら、年間70万人を超える観光客が到来します。しかも白トリフの季節である10月から12月半ばの約2カ月の間にその7〜8割が集中して訪れます。

ランゲは「テリトーリオ」として実に興味深い発展を遂げてきた地域です。英語のテリトリーが一般に行政区分に基づく地域を指すのに対し、テリトーリオとは都市と農村の関係、自然、文化、社会のアイデンティを包括する空間を指す言葉でイタリア文化を特徴づける概念のひとつです。

イタリアでは何においても、対象を包括的におさえようとする欲求をもつ人が多いですが、地域についても同様のアプローチをするのです。さらに、同様の傾向がデザインにも表れるので、ランゲをみるとイタリアの“デザイン文化”がよく理解できます。
ユネスコ無形文化遺産に登録されている葡萄畑の風景

ユネスコ無形文化遺産に登録されている葡萄畑の風景

デザイン文化とは何か?

さて、最初にデザイン文化について解説しておきます。

これまでデザインが何を指すかについて、さまざまな議論が繰り返されてきました。歴史的にみてデザインの対象が建築物に付随する装飾品や家具、大量工業製品のカタチや色、電子機器のユーザーインターフェース、社会の課題などに拡大し、それらのサイズ、デザインプロセスとアウトプットにおける美的要素のウエイト度合いの変化によって議論の方向が決まってきます。

20世紀後半からイタリアデザインが世界で高評価を受けてきたポイントは、美的センスと並んで、対象に捉える範囲が広いということでしょう。照明器具を考えるには空間全体と人の存在を視野に入れる、というのが例です。大量生産する企業のための工業デザイナーよりも、建築家の発想です。それぞれの要素が有機的な関係をもった空間やその意味への関心が強いのです。

理由のひとつとして、1990年代半ばまでデザインを専攻とする学部が国立大学に存在せず、建築のコースのなかでデザインが教えられたという経緯があります。それゆえ、デザイナーである前に建築家であったのです。なんらかの工業製品をデザインするにも広い空間を視野に入れるべきという考えが強かったから、建築を重視する教育課程が優先的に組まれていたと理解したいです。
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文・写真=安西洋之

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