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2024.10.31 11:25

西川貴教が語る「滋賀革命」 9.5万人フェス成功の舞台裏と持続可能な地方創生

「イナズマが始まった当時、アーティストが主催する音楽フェスは珍しく、かつ自治体と密に組んだケースはほぼゼロでした。必然的に表に出る側の僕が、リスクと責任を負う必要があった。でもその代わり、言いたいことはちゃんと言わせてもらってきました。


僕たちエンタメ業界の人間は、良い評価からも悪い評価からも逃げ隠れできません。リスクと向き合っています。地方創生における集客のためだけでなく、発想力が求められるゼロイチの場面やブランディング、リスクを上手く分散したい時などにもっと活用いただきたいですね」

鍵は「プラットフォーム化」

西川には、「イナズマロック フェス」の成功を通じて学んだことがある。

「『地方創生だから儲けを出さなくていい』では長くは続きません。補助金だって、政策が変わればいつハシゴを外されるか分からない。いくら熱い思いがあっても、継続的に収益を上げ、関わる人たちへ還元していかなければ、誰かがツライ思いをして終わってしまう。持続的な好循環を生み出せて初めて、本当の意味での地方創生、そして社会貢献が実現するんです。ひとつの国をつくるような発想で物事を進めていかないと、地方創生は成功しないと思っています」

そして今、西川は「イナズマロック フェス」の経験とノウハウを詰め込んだ、地方創生イベントのプラットフォーム化に乗り出している。その旗揚げが、米のコンベンションブランド「KOMECON」だ。


全国各地で地域活性化イベントが開催されているが、資金面や人材不足で継続が難しいという課題がある。解決のため、「KOMECON」ではイベント運営を「ゼロからスタートさせないプラットフォーム」構築を目指す。

例えば、イベント会場や配布物のデザイン、スポンサー対応、衛生管理に至るまで、イベント運営のノウハウや仕組みを雛形化。滋賀県と同様の課題を抱える地方へ横展開する。それによってコストを削減しつつ、収益を最大化する「持続可能な地方創生」の成功事例を、全国各地で生み出していく。それが西川の描く青写真だ。
「KOMECON 2024」の会場イメージ。同イベントのスポンサーには JA東びわこをはじめ、地元企業や県外の企業も名を連ねる。

「KOMECON 2024」の会場イメージ。同イベントのスポンサーには JA東びわこをはじめ、地元や県外の企業も名を連ねる。

しかし、なぜ数あるコンテンツから「米」を選んだのか。
「エンタメは、コロナ禍の影響を受けて真っ先に切られてしまう存在でした。もっと人々に身近で、生活に密着したテーマ、つまり『食』が重要だと考えました。米は日本中で作られていて、大体どの地方にもご当地米がある。地域に根ざしたイベントを行うのに最適な食材だと思ったんです」

第一回目となる「SHIGA KOMECON 2024」は、11月2日、3日に彦根市にある平和堂本部駐車場で開催される。会場には、近江米6種類を合計約4トン用意。来場者は米の食べ比べや、全国から集まった20以上の事業者によるご飯のお供との組み合わせを楽しめる。チケットは有料で、高級惣菜を味わえるプレミアムチケット(大人5000円、子供2500円)は早々に売り切れた。

全国各地で自治体や農協が主催する米のイベントの多くは無料だ。西川は、それが米の消費拡大につながっているのか疑問を抱く。しかし、わざわざ料金を支払ってまで人々は米のイベントに足を運ぶのだろうか。

西川はそれを可能にするのが「主役の米を引き立てる、エンタメ性」だと説明する。

会場では西川と、SNS総フォロワー数600万人超のメガインフルエンサーMumeiや和田裕行 彦根市長のゲストトークショーを始め、人気女性DJ Cellyによるプレイ、観客参加型の体操パフォーマンス、マーチング強豪校の地元・近江高校吹奏楽部によるライブ演奏などといったプログラムを終日開催予定だ。

単なる試食会ではなく、来場者にエンターテイメントと合わせて米の魅力を五感で体感してもらう。それが西川流なのだ。

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文 =堤美佳子 編集=大柏真佑実 撮影=木村辰郎

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