自社畑から1種類のみ。「メルティングポット」なワイン造り
自然と共生しながらワイン造りを行うために大切にしているのは、樹を長生きさせることだ。ブドウも古くなると生産性が落ちるため、ニューワールドでは、だいたい約25年で植え替えがされるというが、クインテッサでは1990年創業当初に植樹した樹を60%も残しているのだ。木にストレスを与えない剪定方法を工夫するなど、様々な専門家の協力を得て「ヘルシーな木を育てる」ことに取り組んだ結果、収量も安定し、生き生きとしたブドウが取れるようになったという。
「ひと手間も二手間もかけてオーガニック、ビオディナミ栽培を行うのは、この美しい土地を1本のワインに表現したいから」と強調するレベッカ氏。そのため、これも非常にユニークなポイントなのだが、クインテッサでは、自社畑から1種類のワインのみを造っている。ラザフォードに広がる約60haの畑は細かい区画に分かれているが、各区画の個性を理解しながらも、それらをブレンドすることで、ひとつの土地の味を表現しようとしているのだ。さまざまな個性が1つに調和するこのワインは、「メルティングポット」といわれるアメリカの多様性を反映したようなワインといえるのかもしれない。
気になる味わいは?「オーガニックを30年」がブドウを鍛えた
さて、1本3万円のワインが4種類も目の前に並ぶと、筆者もごくりと唾が出てしまう。
今回試飲したヴィンテージは、2021年、2019年、2014年、2000年。ヴィンテージごとの違いが如実に反映され、垂直試飲がとても楽しいワインだ。
今回お披露目となった2021年は、「クインテッサらしさが出ていて、最も好きなヴィンテージ」とレベッカ氏。干ばつが続き暑い年だったこともあり、果実味はしっかりしているが、美しい酸とフレッシュさもきちんと残っている。「極端な気候をブドウが吸収できる耐性がついたのは、オーガニックを30年続けてきた効果ね」とレベッカ氏も自信を見せる。
対して雨が多くマイルドな気候だった2019年は、赤果実も出ていてやや軽めに感じられ、調和の取れたワインだ。2021年との味わいの差が如実で、比較が楽しい。
筆者が最も好みだったのが、2014年。10年が経ち、まだまだ果実味は元気ながら、熟成によって柔らかく一体感の増した味わいが何ともいえずエレガントだ。果実味以外の、ハーブやオリエンタルスパイスのニュアンスも強く出ていて、会場となったアンダーズ東京が当日提供した特製ラム肉にも絶妙の相性だった。
「古いヴィンテージは私もなかなか飲めないから、飲みたかったのよ」と最後に供された2000年は、酸味も穏やかで、舌を滑るような滑らかなテクスチャが官能的。腐葉土やきのこなど熟成香の奥に馬小屋のような風味も感じられ、好みが分れるかもしれない。
共通して感じられたのは、カリフォルニアワイン=太陽さんさん&パンチ力抜群のワインというイメージを覆すような、ち密で繊細な表現。もちろん太陽の恵みは存分に感じるのだが、パワフルさのなかに抑制が感じられ、複雑で奥行きのある味わいに驚いた。
「クインテッサ」には、「本質」「真髄」という意味もある。カリフォルニアの土地を1本に表現した、知る人ぞ知る「本物のワイン」を贈ったところに、チームの粋な心遣いを感じた。