編集長の忘れられない「この一言」
シニアライターとして創刊に関わり、2019年より編集長を務める藤吉雅春が10年分の取材ノートから忘れられない「この一言」を抜粋。リーダーたちの言葉にどんな未来を見たのか。
三回目の今回は、2018年7月号、元メジャーリーガーのこの人。
〈で、こいつは、我々のファミリーになれるのか?〉
(Forbes JAPAN2018年7月号 斎藤隆が大リーグで見つけた 強いチームだけが持つ「言葉と組織」)
あなたの会社や組織には「呪文」があるだろうか。
Forbes JAPANを創刊してから10年間、多くの企業や人を取材してきて「面白いな」と思うことがある。それは、強い組織や何百年と長く続く会社には「呪文」があると発見した時だ。もちろん「これが呪文です」と紹介されるわけではない。言うなれば、全員が納得する合言葉のようなものである。
例えば、仕事の判断に迷った時、「幸之助だったらどうする?」と社員が自問自答するというのは、松下幸之助が創業したパナソニック。そして「やってみなはれ」という助言をするのは、もちろんあの会社、サントリーだ。
京都の何百年と続く長寿企業になると、「先義後利」とか「陰徳を積む」という家訓の言葉が呪文となる。たった一言で、みんなが言葉の背景まで理解できてストンと落ちる。行動を判断するのに便利な言葉だ。
「会社を始めるのなら、マントラを決めよう!」と言うのは、米アップルの初代エバンジェリスト、ガイ・カワサキである。マントラとは、〈神への祈り、まじない、神秘的な可能性を秘めた教典の言葉など、神聖な決り文句〉のことで、会社にもマントラが必要だという。
「世界をよりよい場所にするためにどんな素晴らしいことをするか」
彼は自著『起業への挑戦』(海と月社)のなかでこう書いている。
1. ナイキのマントラは、「中国製のシューズをたくさん売る」とは言わず、「本物のアスレチックパフォーマンス」と言う。マントラは、内向き、利己的、金儲けであってはならない。その方(その逆の方)が 気持ちは前向きになる。
2. マントラは世界をよりよい場所にするためにどんな素晴らしいことをするかを説く。だから、マントラがあった方が社内の士気もあがる。
さて、Forbes JAPAN創刊から10年間の取材で、「これは採用に使える」と思ったマントラがある。元メジャーリーガーの斎藤隆氏から聞いた、メジャーリーグ球団の言葉だ。
横浜ベイスターズやロサンゼルス・ドジャーズなど日米7球団で活躍した斎藤元投手は、私が取材した2018年当時、経営の勉強をするためサンディエゴ・パドレス球団本部で環太平洋顧問という立場にいた。パドレスの経営側に入った時、彼は常に2冊のノートを持ち歩いていたという。
「なんで2冊に分けていたんですか?」と聞くと、ゼネラルマネジャー(GM)の発言をメモする殴り書き用のノートと清書用のノートと言い、「目から鱗が落ちることばかりでした」と、学んだことを教えてくれた。