日米コミュニティの非対称性の解消へ
こうして日本、米国、インドをつなぐビジネスを構築したサイマたち。エボリューションのVC事業の戦略的パートナーには、大手銀行、小売業、システムインテグレーターなどDX推進に積極的な大手日本企業が名を連ねる。しかし、より大きな社会的インパクトを創出するためには、志を同じくするリーダーたちが協力するコミュニティが必要だった。それがSVJPだった。「SVJPは日本のDXを支援する立場にあります。多くの企業と協働しながら、社会が直面している喫緊の課題を解決するために何ができるかを議論し、変革に向けて行動を起こすことが(共同議長である)私の役割のひとつです」
そのために必要なこととして、サイマは「日米のコミュニティにおける非対称性の解消」と「企業間連携促進の働きかけ」を挙げる。「日本のリーダーたちはイノベーションを優先し、ビジネスを前進させる準備が整っています。一方、米国サイドは日本文化などにも関心を寄せています。お互いが求めているものは必ずしも同じではないのです。そのため、SVJPでの対話やイベントを双方にとって生産的なものにするには、参加者全員の意図や目標、優先順位を十分に理解する必要があります」。
加えて、サイマは「SVJPに多様性をもたらし、シリコンバレーの考え方の縮図をつくり出したい」と抱負を述べる。
「多くのイノベーションを起こすには、異なる問いかけをする人たちの存在が不可欠です。多様性があるほど、偉大なことを成し遂げられる可能性は高くなります」
民間セクターと非営利セクターをつなぎ、ウィン・ウィン・ウィンの関係性を構築する。その舞台が整いつつある今、彼女は年内にも世界最大級のハイテク企業とともに、AI時代に求められる大規模な能力開発プロジェクトを始める予定だ。
自分に課された役割は何か。人生をかけて打ち込むべき仕事は何か。常にそう問いかけ人生の主導権を握ってきたサイマ。彼女が目指すのは、能力のある人たちが平等に機会を与えられ、誰も可能性を狭められることなく充実した人生を生きる、活力にあふれた未来だ。
「私の使命は高校生のころと変わりません。公共セクター、民間セクター、非営利セクターをつなぎながら、人々の潜在能力を引き出す支援をする。これこそが、私が目指す最終ゴールなのです。世界はもっと架け橋を必要としています」
サイマ・ハサン◎スタンフォード大学卒業、ハーバード・ビジネス・スクール修了。2008年にインドの女性に就労訓練の機会を提供するロシュニ(Roshni)創業。18年にエボリューション(Evolution)を共同創業。24年1月からSVJP共同議長。