この恒星「J1249+36」(カタログ名:CWISE J090552.38+01 365806.8)は、地球からわずか400光年の距離にある。これまで知られている中で最も小型で、太陽系に最も近い「超高速星」だ。
脱出速度
J1249+36が天文学者にとって興味深い研究対象である理由は、奇妙な軌道を描いて高速で移動しているため、銀河系から完全に脱出してしまう可能性があるからだ。NASAのWISE(広視野赤外線探査)衛星の過去14年間に及ぶ全天サーベイ観測で収集された膨大なデータを詳細に調査した市民科学者がJ1249+36を発見し、天文学者が地上望遠鏡でフォローアップ(追跡)観測を実施した。今回の研究をまとめた論文は予稿として公開されており、天文学誌The Astrophysical Journal Lettersに掲載が受理されている。
ドイツのニュルンベルクからWISEデータ分析プロジェクトに参加している市民科学者のマーティン・カバトニクは「どれほど心躍っているかは、言葉では言い表せない」と、NASAのジェット推進研究所(JPL)に対して語っている。「この星がどれほど高速で動いているかを最初に確認した際には、すでに報告されているに違いないと思い込んでしまった」
起源は謎
J1249+36がどのようにしてこれほど高速で移動するようになったかについては、天文学者はまだ明確に説明できておらず、いくつかの仮説が提唱されている。仮説の1つは、元は球状星団に属していた恒星が、球状星団の中心にあるブラックホール連星と近接遭遇した結果、球状星団から放り出された可能性があるというものだ。球状星団は、多数の古代の星が球状に密集し互いの重力で束縛されている天体で、銀河系を周回している。古代銀河の中心核の残骸と考えられているものもある。論文の共同執筆者で、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の助教を務めるカイル・クレマーは「ブラックホール連星と遭遇した恒星は、この三体相互作用の複雑な力学によって、球状星団から完全に放り出される可能性がある」と説明している。
今回の奇妙な恒星は、スペクトル型がL型の準矮星(平均的な矮星より低光度の低質量星)で、銀河系で最古級の恒星とされる。