サイエンス

2024.09.02 12:30

魚の舌を食べ、自ら「その舌に取って代わる」寄生虫

たとえば、寄生性のフジツボ類であるフクロムシ(Sacculina carcini)は、カニに侵入して生殖機能を乗っ取る。器官全体を置き換えるのではなく、ジャックして、宿主であるカニに寄生虫の幼虫を自身の子のように育てさせる。フクロムシは宿主の行動と生理を巧みに操るが、生殖器官の機能そのものを置き換えるわけではない。

槍形吸虫(Dicrocoelium dendriticum)は、アリの脳に侵入して行動を変えさせることで、草食動物に食べられる可能性を高める。槍形吸虫はアリの行動に大きな影響を与えるが、アリの体のどの部分も置き換えない。取って代わるのではなく巧みに操る。

いずれも巧妙な戦略だが、ウノオエが魚の舌に取って代わるような方法で宿主の一部になる寄生虫は他にない。魚の器官を破壊するだけでなく取って代わるウオノエの能力は、真にユニークなものであり、動物界における寄生適応の恐るべき事例といえる。

宿主である魚は(おおむね)無事だが、人間の活動が事態を悪化させる可能性がある

ウオノエに付着された場合、宿主となった魚が低体重になる可能性があることを示す証拠が、古い研究ではあるが報告されているが、それは自然現象だ。

その一方で、悲しい現実として、人間の漁業が魚たちを栄養不良の海域へと追いやっている可能性がかなり高いのだ。

ウオノエの仲間で吸血性のソコウオノエ(Ceratothoa italica)が、過剰漁獲された水域における魚に寄生する可能性は、保護水域の魚に対するよりも60%も高いことをBiological Journal of the Linnean Societyに掲載された2012年の論文が報告している。論文は、過剰漁獲されている水域の栄養状態は、保護水域よりも劣悪であることも指摘している。

つまり、ウオノエは自然を逸脱しているように思えるかもしれないが、人間の活動の方が、はるかに破壊的な結果を招くことを論文は示している。

ウオノエのような寄生虫は、生態系の中で重要な役割を演じており、宿主の個体数を調整することで生態系のバランスを保っていることが多い。ウオノエの研究はまだ表面的なものでしかなく、その生殖サイクルなどについても学ぶべきことがまだある。彼らの存在は、共生、寄生および異種間における微妙な相互作用に関する研究意欲を今後もかきたてていくだろう。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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