さらに、コアなファンは、普通のクアーズライト缶に自分でマジックで四角い穴らしきものを描いたり、クアーズライトTシャツの同じ位置(Cのすぐ上)に、穴に見える四角を描いたりし始めた。また、この話を聞きつけた一部の日本の方々もSNSで欲しいと発信し始め、それを知ったクアーズ側は、日本でも四角い穴あき缶を発売し、日本のニュース番組でも取り上げられた。
Coors Light - Coors Lights Out (case study)より
なお、クアーズ側が制作した事例ビデオにも“UNOFFICIAL SPORTS SPONCORSHIP”と書かれているが、大リーグ側にも大谷翔平選手個人にも、1ドルも支払っていない。大リーグや大谷翔平選手には何も迷惑や負担はかけておらず、そういう意味からしても支払う必要はないだろう。そこに登場するのは、大谷翔平選手本人ではなく、大谷翔平選手の打球で壊れた広告と、それを再現した穴あき缶だけなのだから。
それなのに、大リーグ公式ビール(ライバルであるバドワイザーを指すと思われる)よりも話題になり、“BREAKING THE MOLD OF SPORTSMARKETING WITH ONE BROKEN AD (1つの壊れた広告で、スポーツマーケティングの型を壊した)”と記している。
広告コミュニケーションの名作の中には、本件のような「フットワークの軽さ」がキーとなっているものが少なくない。机の前でウンウン唸って考え続けるのではなく、現実に起こった出来事にひょいと軽く乗っかって、大きな成果をあげるものだ。
困った状況、ネガティブな環境を、逆手に取ってみる。機会を逃さず、“フッ軽”で発想し、素早く実行する。もちろん、そのためには普段からそうした社内カルチャーの醸成を行っておくことも必要だろう。