3つ目が社会起業家の育成です。金銭的な利益を追求するだけではなく、困っている人を助けたり、社会のなかで見過ごされているニーズを見いだしケアすることは重要です。しかし、それには資金的にもサステナブルな仕組みづくりが不可欠です。23年12月に一般財団法人Soilと社会起業ワークショップおよび助成プログラムの最終ピッチを共催し、最終的に6件7人の学生が支援金と3カ月間のメンタリングの提供を受けたのはその一環です。
対話を通じて未知の物事を知る
──藤井さんは、アントレプレナーシップの醸成には対話が重要だと説いています。新たな知や価値の創造につながる対話とは、具体的にどのようなものですか。藤井:対話とは未知の物事を知ろうとするアクションだととらえています。例えば社会課題について意見を交換し、共感的な理解を得ていくなかで信頼関係も育んでいく。新たな技術や創造のアイデアを生み出すには、このアクションがとても大切です。
──この先、日本の大学は何を見据え、どこを目指すべきでしょうか。
藤井:これからの日本は、もっと世界に開いていくべきです。日本は非欧米国で、少子高齢化が進んではいるもののいまだに経済規模が大きくユニークな国です。世界中から未来を担うリーダーになりうる人たちを迎え入れ、アジア、日本ならではの視点をもちながら学んでもらう。学んだ後は日本や世界各地で活躍してもらう。そのような教育ができる大学を増やしていくべきだと考えています。
それにはまず、英語で学べる環境を整える必要があります。東大では21年度から海外の学生向けに短期集中プログラム「UTokyo Global Unit Courses」を開講しています。また、英語で学ぶ講義を大幅に拡充するため23年4月にはグローバル教育センターを設置しました。27年秋には学士課程4年・修士課程1年からなる5年制の課程「Col lege of Design(仮称)」を新設する予定です。学生の興味関心に基づいて文理融合・学際的な知識を主体的に学ぶことができる環境を提供します。授業は英語で実施し、世界中から学生を受け入れたいと考えています。
これらのプログラムと東大が築き上げてきた仕組みやプラットフォームを連携させながら、世界中の人たちがともに学び合い、新たな知やアイデアを創造する。そこからアントレプレナーシップの未来もさらに広がるものと期待しています。
ふじい・てるお◎1964年、スイス生まれ。東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了。専門は応用マイクロ流体システム、海中工学。理化学研究所、東京大学生産技術研究所長、東京大学理事・副学長などを経て2021年に東京大学第31代総長に就任。博士(工学)。