文化を「前へ放り出す」 ミラノデザインウィークの進化

期間中には市内の至る所にデザインがあふれ、業界関係者でなくてもイベント気分で楽しめる。(Getty Images)

現在、フオーリサローネはトルトーナ以外にも複数の地区が参加している。出展企業も家電、自動車、通信と広がってきた。また、企業ごとでなく、広いスペースで多数の展示者が参加するプラットフォームも誕生した。
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数年単位で話題の的は変わるが、最近では「アルコヴァ(Alcova)」が注目されている。参加するデザイナーの質だけでなく、元軍事病院や郊外の貴族の邸宅と場所選びが人々の関心をひき、毎年行列ができるほどだ。このように60年の間にあるものは自然と生まれ、あるものは企画され、あるものは消えて、エコシステムが発展してきた。

「前に放り出す」文化を加速

実は、ミラノサローネとフオーリサローネは互いに恩恵を被りながらも、意識的に二人三脚で発展してきたとは言い難かった。変化が起きたのは2017~18年、「デザインのミラノ」と呼称されるに至ったデザイン文化をさらに充実させていこうという趣旨のマニフェストが発表されたのだ。文化とはイタリア語で「プロジェット文化」といわれ、プロジェットとはラテン語の「前方に放り出す」に語源がある。各々の市民が何かを前進させるために意識的に身を投じる文化を指すのだ。
 
今年、サローネは新たな2つの動きをとる。一つは、毎年デザインウィークの前週に開催されるアートフェア「MiArt」とのコラボレーションだ。アート界はデザインとは一線を画してきたところがあるため協力のなさは当然のようにも見えていたが、フオーリサローネのテーマ設定の議論に初めてMiArtのクリエイティブディレクターが参加。現地のジャーナリストは「協力の意思表示がなかったのが不思議なくらいだ。新しい局面にきているのは明らか」と語る。

もうひとつは、ミラノ工科大学デザイン学部に調査を委託したことだ。これほどに経済的および社会文化的に影響を及ぼすイベントでありながら、これまでそのエコシステムについてアカデミアが関与するリサーチと解析がされてこなかった。90年代、イタリア政府の予算で20世紀後半からのイタリアデザインの特徴が分析されて以降、このような大々的なリサーチが行われるのは初となる。

この春、多くの学生たちが駆り出され街に出た。その結果は秋以降、報告書となって明らかになる。
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安西洋之◎ミラノと東京を拠点としたビジネス+文化のデザイナー。ビジネスや商品のローカリゼーションやデザインマネジメント領域を得意とする。21世紀に生きる新しいラグジュアリーの意味を探索し、Forbes JAPAN Webで「ポストラグジュアリー 360度の風景」を連載中。

文=安西洋之 編集=鈴木奈央

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