経営・戦略

2024.07.30 10:15

イーロン・マスクやスタンフォード大学に共通 組織が動き出す「あるルール」

──経営学者のキャシーさんからみて、経営者としてシンプルルールをうまく取り入れている人はいますか?

イーロン・マスクはその一人です。人格的には否定的な見方もありますが、起業家として物事の本質を見抜く力は抜群に優れています。彼は、組織のなかでも、常にごく少数のシンプルなルールを提示することで知られています。

補足:2013年のTED Talkでは「(どんなに複雑なことも)物事を基本的な真理まで煮詰めそこから推論することによって乗り越えることができる」と語っているが、考え抜くことで物事をシンプル化しているということだ。また、テスラの2006年と2016年の年度事業計画は、どれもわずか4〜5行にまとめられている。

シンプルなルールは、自分を束縛しすぎることなく、自分がどこに向かっているのかを常に示す道しるべとして役立ちます。また、時間的に何を優先させるかということとも関係しています。誰もすべての仕事をこなすことはできません。数年後の自分はどうなっているのか、長期的なゴールは何なのか、をごくシンプルに設定し、そして今日何をすべきかを決めるのです。

この時間軸という意味では、「正しい場所、正しいタイミング」を見極めることも重要です。一流の起業家は運がいいと思いますが、彼らは運を重視しつつも、それだけに頼らず、世界はどこに向かっているのか、どうやってその流れに合わせるかを追求し、限られた時間を有効に使い、自分の運を作っていくのだと思います。

取材後記

スタンフォード大学に客員研究員として滞在することが決まった時から、私が最もお会いしたかったのが、アイゼンハート教授でした。経営学者であれば誰もが彼女の名前を知るレジェンドです。その彼女にスタンフォード大学の成功の理由を聞いたところ彼女が提唱する「シンプルルール」にのっとって説明をしてくれました。本質を突いたこのコンセプトは、変化の激しい時代における経営をする道しるべとなるものです。

筆者(左)とキャサリン・アイゼンハート教授

筆者(左)とキャサリン・アイゼンハート教授

ところで、彼女は2人の子どもを出産した後に、30歳過ぎてから博士課程に進んだ人でもあり、スタンフォード大学工学部で最初に着任した女性教員でもあります。女性がマイノリティとして活躍するにはどうしたらいいか、そのことを質問しました。その回答は長いのですが、とても示唆に富むエネルギーに満ちたものだったので、ここに紹介したいと思います。

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私はこの学部で最初に採用された女性です。まさにマイノリティの当事者として長い間過ごしてきましたが、皆さんに伝えたいことは、悪いことと良いことを一緒に受け止めることを学ぶ必要があるということです。

少数派であるからこそより注目され、ときには恩恵を受けることもあります。だから、最終的にはバランスが取れていると考えています。言いたいのは、差別があることに目を向けるのではなく、その事実の裏には自分にとって有利に働いている側面があることを認識してほしいということです。

もう一つは分散です。英語では、「don't put all your eggs in one basket(卵を一つのカゴに盛るな)」という表現があります。分散投資の重要性を示した言葉ですね。仕事一辺倒にならないようにしましょう、ということです。もしあなたが子どもを持つことを選択したのなら、子どもを楽しませ、一緒に何かをする。子どもがいない場合は、友人や配偶者に投資しましょう。

もし仕事がうまくいかなかったとしても、家族や友人などとのバランスがとれていて、そうした面を楽しんでいればより豊かな人生となります。これはとても大切なことだと思います。

文=芦澤美智子 編集=露原直人

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