米国のシカゴ・デポール大学で地理学の教鞭を執るマキシム・サムソン氏が自著『世界は「見えない境界線」でできている』の中で、地球上にいま存在する30の見えない境界線のインパクトを浮き彫りにした。本書の執筆に挑んだ背景を、来日したサムソン氏に聞いた。
今、最も注目している「アジアの地域における境界線」
サムソン氏は「多くの人々が世界を理解しようとする試みを助け、私たちと世界との関わり方に影響を及ぼすさまざまな境界線を読者に紹介すること」が執筆の狙いであると自著の中で語っている。6月5日には、かんき出版が日本語訳本である『世界は「見えない境界線」でできている』を上梓した。「日本の人々にも世界中に遍在する見えない境界線の存在に思いを馳せてほしい」とサムソン氏は期待を寄せる。
サムソン氏は、長らく日本人の生活や文化にも興味を抱いていたという。今回自身の足で初めて日本に訪れたことで少なからぬ収穫を得ることができたようだ。
欧米のアカデミアでは現在、世界の文化・政治・経済に多面的な影響を及ぼしているアジア地域の動向に注目が集まっているという。サムスン氏は、世界の多様性を理解するためにはオルタナティブな視点を持つことが欠かせないとし、自身にとっては「アジアの地域における境界線」に関心を向けることが、目下の大きなテーマになっていると語る。本書でサムソン氏は、インドネシア・アチェの地域における独自の宗教と世界観にも深く結びつく「道徳警察」の存在を論じている。
「8マイル」「ブラント・ライン」「バイブルベルト」
サムソン氏は専門である「地理学」の特徴について次のように答えている。「地理学は主に『場所の理解』を深める学問。ある場所で起きた出来事がバタフライ効果のように時間をかけて広く波及することもある。そうなると地理学のほかに、人類が重ねてきた『時間』を研究対象として扱う歴史学と絡めた考察が必要になる場合がある。他にも文化人類学、気象学、都市社会学など広範囲な知識にも結びつく地理学は、まさしくボーダーレスな学問。『地球そのもの』をテーマとして扱っているとも言える」
本書でサムソン氏は「見えない境界線」の存在について、さまざまな側面から見て捉えることに挑んでいる。
第4部の「8マイル」では、1930年代に米国のデトロイトで施行された人種隔離的・人種差別的な都市計画から見えない境界線が生まれ、街の都市部と郊外地域との間に格差意識をつくり出した歴史について触れられている。2002年に公開されたヒップ・ホップミュージシャン、エミネムの半自伝映画『8 Mile』では、1990年半ばのデトロイト市内における混沌とした状況が描かれている。