飼い主は自分とは異なる存在を気遣い、ペットのニーズや情動に敏感になることで、時間をかけて特別な絆を育み、そこから得た教訓を生かして豊かな対人関係を築いているようだ。
ペットの飼育が他者への共感を高め、対人関係の充実につながる2つの理由を、心理学的見地から解説しよう。
1. ペットは、他者を思いやる方法を教えてくれる
学術誌Frontiers in Psychologyに2024年6月に掲載された研究によれば、ペットに対する強い愛着は、動物一般への共感を強め、それが周囲の人に対する向社会的行動とも関連していることがわかった。向社会的行動とは、他者に利益をもたらしたり、他者をサポートしたりする自発的行動のことだ。これは、ペットが「愛着対象」とみなされるためだと研究者たちは考えている。愛着対象とは、愛着理論において、人が緊密な情動的絆を結ぼうとする特定の相手をいい、特にストレスや不安をおぼえている際に安心感や心地よさをもたらしてくれる人物をさす。
人間においては、幼少期の保護者などの主要な愛着対象が、人間関係における重要な役割を果たす。こうした愛着対象は「対人関係のテンプレート」を提供するのだ。飼い主にとって、愛するペットは同じ役割を果たしているようだ。ポジティブな愛着対象の存在は、情動的な支えとなり、信頼と安心感を醸成し、ストレスを軽減させる。
こうした愛着対象との関係性から、人は自分自身の情動を制御し、他者の感情の動きを察知し、一貫性のある安定した絆を経験し、他者との健全な関係の築き方を学ぶ。私たちは、ペットを心の支えとし、ペットのニーズを一貫して満たそうとする中で、自らの望ましい行動を強化するのだ。
論文著者らは、こう述べている。「人はしばしばペットを自分が世話すべき愛着対象とみなし、ストレスの多い状況下でペットのウェルビーイングに気を配るようになる。動物への共感が、対人的な向社会的行動に影響を与えるのは、動物との関係性から学んだ共感的なプロセスを、対人関係に組み入れた結果かもしれない。すなわち、ペットを“愛着関係における他者”の代理とみなした結果なのかもしれない」
一方、2018年の別の研究論文では、ペットの飼育を通じて近隣住民と交流し信頼を強めることで、飼い主の社会的能力が高まることが示された。ペットが社会の触媒として働き、飼い主に近所づきあいや社会的スキルの実践を促したのだ。
たとえば、公共の場で犬を散歩させれば会話のきっかけが生まれ、近所の人との接点、ひいては友情へと発展し得る。こうした体験を土台として、他者とより深く知り合い、対人関係において共感する能力が育まれると考えられるのだ。