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2024.06.26 17:45

慶応大も参戦 「創薬スタートアップ」50社を輩出するSPARKとは

ダリア・モシーローゼン教授

大学は新薬開発のもととなるシーズの宝庫だ。しかし、研究成果を事業化する創薬スタートアップは大学の医学部だけではできない。経営人材や資金などさまざまな要素が必要になる。日本では、技術はあってもそれを企業などとともに社会実装していく文化や環境が整っていないという課題もあり、創薬スタートアップが生まれにくい。

この問題に向き合ううえで参考になるのが、2006年に米国スタンフォード大学で生まれた「SPARK(スパーク)」だ。創薬スタートアップを生み出すために、産学連携を促進していくプログラムで、これまでにスタンフォード脳神経外科教授が起業したCuraSen Therapeuticsなど、設立以来50を超えるスタートアップを輩出してきた。日本では、慶應義塾大学医学部も参加しているResearch StudioがこのSPARKと連携するなど、今後日本でも浸透していく可能性もある。

SPARKとはどのような仕組みなのか、また日本で取り入れて成功させるために必要のことは何か。スタンフォード大学医学部(インタビュー当時)の串岡純一さんとスタンフォード大学ビジネススクール卒業生の中安杏奈さんとともに、創設者のダリア・モシーローゼン教授に聞いた。

平均2年間の開発資金やメンタリング

SPARKは、創薬に向けた基礎研究から臨床現場への橋渡し研究を行うトレーニングプログラムだ。大学だけではなく産業界とも強いネットワークを築き、大手製薬会社や起業家・投資家がメンターに名を連ね、頻繁にスタンフォードキャンパスを訪れている。研究者に対しては、創薬に必要な専門知識、技術知見、専用の研究施設、資金源へのアクセスを提供している。「SPARK奨学研究者(SPARKee)」には平均2年間の開発資金、毎週のセミナーの参加権利、製品提案資金、メンタリングが提供されるという手厚さだ。

約20年近くSPARKを率いてきたモシーローゼン教授だが、「産業界と医学部の連携は簡単なことではありません」と話す。

「大学の研究室では、教授が最も強い力を持っています。しかし、全ての研究プロジェクトに関わるのは現実的ではありません。研究室のメンバーによる主体的な行動が重要ですが、構造上、難しい。それでは創薬という不確実性を伴い、柔軟性が必要なプロジェクトはなかなか前に進みません」

一方企業では、大きなプロジェクトを進める過程で、他の部署や複数の階層の合意が必要となる。互いの意思決定構造は異なるが、それを理解できないため、産学のプロジェクトでは両者の関係が悪化したり、業務に滞りが生じるケースも多い。

モシーローゼン教授の指摘は、日本の医学部でもよく耳にする話だ。実際に先日もある医学部の若手研究者から「教授が大企業トップと意気投合してプロジェクトがスタートしたのですが、壁が多くて困っています。大企業側は専門分化された部署間の調整が大変で、階層をまたいだ合意形成にも時間がかかるようです。どうしたらよいのでしょうか」と相談されることがあった。

では、SPARKは、どのようにその課題を乗り越えたのか。
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取材・文=芦澤美智子、串岡純一、中安杏奈 編集=露原直人

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