海外

2024.06.26 17:45

慶応大も参戦 「創薬スタートアップ」50社を輩出するSPARKとは

「私がプログラムを開催するときには必ず、産業界とアカデミアの人たちを一つの部屋に集めて、上下関係がないこと、それぞれの組織の意思決定構造の違いの弊害と乗り越え方について伝えるようにしています」(モシーローゼン教授)

モシーローゼン教授との連携プロジェクトを数多く手がけてきた京都大学の小栁智義氏によると、モシーローゼン教授のリーダーシップが随所に見られるという。例えば、議論をファシリテートするときに、場を支配する強い意見をもつメンターを敢えて遮り、他の人に意見を求めるのだ。創薬スタートアップ創出のために必要なことを細やかに説明し、プロジェクトを推進するうで必要な「上下関係のない文化作り」を後押ししてくれる人の存在が重要になってくるだろう。

人の集め方がコミュニティの成否を決める

加えてモシーローゼン教授は、「人をどう集めるかが鍵」だと主張する。

「『SPARK』は産業界からボランティアを募って運営に協力してもらっていますが、日本ではボランティアで専業の傍ら活動するのは難しいと聞いており、その方法は合わないでしょう。まず数人に参加してもらい、その人たちが数珠繋ぎのように他の人たちを連れてくるという流れを作ることが求められます」

社交クラブのような楽しい場所をつくり、産業界の科学者たちが、大学などの研究者らと科学の話を自由にできる場を提供し、最新の情報に触れられる場ができれば「中毒性をもったコミュニティになる」というのが博士の考えだ。数珠繋ぎを成功させるには、初期メンバーとして産学官からトップレベルのメンバーが集まることが重要となる。

一方で懸念もあるといい、例えば仮に失敗が起きた際に、次の就職先やキャリアの選択肢が乏しいことや、特に製薬会社においては過度に失敗を失敗と捉える文化が問題があるというのを日本特有の課題として挙げる。

モシーローゼン教授は「そうした文化は、多様な人に対してオープンで失敗にも寛容なスタンフォードに来れば変わります」というが、プログラムの一つとして、そうした環境に日本人を送りこむことも必要なのかもしれない。

ただ、日本の研究者のレベルについてはポジティブな見方だ。彼女は日本を何度も訪問していて、スタンフォードにやってくる多くの日本人研究者にも会っており「日本人の研究者は非常に優秀。クリエイティブでアイデアに欠けることがありません」と評価する。

日本では、政府がスタートアップ5カ年計画で「創薬スタートアップ支援」を表明しているほか、大学発スタートアップに投資をするベンチャーキャピタルファンドも増えている。モシーローゼン教授から挙がったアドバイスは簡単に実行できるものではないが、SPARKのような産学連携を推し進めるには絶好の機会だ。

取材・文=芦澤美智子、串岡純一、中安杏奈 編集=露原直人

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