南極は極めて重要であると同時に脆弱(ぜいじゃく)な場所でもある。南極政治を専門とするダニエラ・レゲット准教授は約10年前に執筆した論文の中で、南極条約体制はこれまでうまく機能してきたが、依然として脆弱だと警告した。現在、前述の7カ国が領有権を主張しているが、南極大陸の広大な地域はいまだにどの国にも領有権がない。主権を主張する国がない世界最大の領土は、南極西部のマリーバードランドだ。マレーシアのマハティール・モハマド元首相は、南極を豊かな国のエリート科学者の遊び場にするのではなく、発展途上国も利用できる大陸にすべきだと国連に提案した。現在の南極条約体制は国連の権限の範囲外にあり、南極を何らかの形で多国間の信託統治下に置くことを検討すべきなのかもしれない。
当然のことながら、ロシアは南極大陸に研究拠点を持つ重要な南極条約締約国だ。南極研究にはデータ共有が不可欠だが、これは明らかに脅威にさらされている。農作物の生育期が長くなるという点でロシアは気候変動の恩恵を受けるかもしれないが、他方で同国は悪影響への備えが不十分であることを示す強力な証拠もある。ロシアは北極圏に世界最大の沿岸領土を有しているが、これまでのところ、南極の領有権は主張していない。国際社会は南極条約体制を利用してロシアに向き合うべきだ。南極に関する科学協力から得られる利益は、ロシアを引き付ける可能性がある。
米国は外交政策の決定で孤立を深めている今、多国間主義を支持する手段として南極を利用する機会を得ている。このような見通しが米政府に浸透しつつあることを示す良い兆候として、先月17日に発表された「国家安全保障覚書」がある。この覚書には、米国は「南極条約体制を通じた国際協力の取り組みを引き続き主導していく」と記されている。科学外交の人類最大の成功の1つが、貪欲な資源争奪戦の餌食にならないよう、私たちは「未知の土地」に注意を払うべき時が来ている。
(forbes.com 原文)