気候・環境

2024.06.20 09:00

サンゴの死滅や水温の上昇、進行する「海の気候危機」

さらにポーリー博士は、水温の急激な上昇が及ぼす他の影響として、海洋生物の命を支える多くの海藻やプランクトンが死滅する可能性を挙げた。もしそうなれば、低酸素の「死の海域(デッドゾーン)」の形成につながるという。例えば、メキシコ湾のミシシッピ川河口付近には、既にこうした海域が生まれている。

さらに同博士は、深海で酸素が不足すれば、魚類の多くの種が、これまでの生息域よりはるかに海面に近いところまで浮上するようになる、と付け加えた。これはつまり、漁業者の網に捕えられる確率が大幅に高まるということだ。

「より深い海域で酸素不足が起きれば、酸素をたっぷり含んだ海水を必要とする、より大型の魚も、海面近くにとどまることを余儀なくされる」と、ポーリー博士は説明した。「短期的に見ればこれは、水産業にとってプラスの効果をもたらすかもしれない。例えば、低酸素の海域が増えることによって、マグロはこれまでほど深く海に潜ることができなくなるはずだ」

「そのため、マグロは海面近くにとどまり、捕まえやすくなる。だが、マグロが生息可能な海域があまりに狭くなって、水産業が打撃を被る日が来るのは時間の問題だ」

「この状況が続けば、世界の海全体がエルニーニョ現象が起きているような状態になるだろう」と、ポーリー博士は警告した。

米海洋保護団体のOcean Conservancy(オーシャン・コンサーバンシー)でチーフサイエンティストを務めるジョージ・レナード博士は筆者へのメールの中で、気候変動は海洋熱波をさらに激化させると述べた。

レナード博士によれば、これらの熱波は、暖かい海に生息するサンゴなどの動けない生物にとっては死を意味するという。また、動くことができる生物は、南北両極への移動を促されるだろうとのことだ。

「気候変動の影響で、一部の海洋系は『ティッピング・ポイント(転換点)』に達しつつある。つまり、こうした海洋系の成り立ちを根本から変えてしまう急速な変化が起きているということだ。そうなると、影響を受けた海洋系が、以前の安定した状態に戻ることは非常に難しく、まずその可能性はないと言ってもいいだろう」と、レナード博士は付け加えた。

加えて、海洋や水路を汚染するプラスチックの問題がある。

インペリアル・カレッジ・ロンドンと、地球科学を専門とするニュージーランドの研究機関、GNSサイエンスの研究チームが先日発表した研究結果では、プラスチック汚染を1年あたり5%削減すれば、海面におけるマイクロプラスチックの総量や集積レベルを安定化させられることが示唆されている。

プラスチックによる環境汚染の問題に取り組む団体、5 Gyres Institute(ファイブ・ジャイルズ・インスティテュート)の共同創設者でエクゼクティブ・ディレクターのアンナ・カミンズはメールで、15年間にわたる調査研究の中で、プラスチックごみが世界中に広がり、主要な海洋すべてに存在することを示すエビデンスを確認したと回答した。

「プラスチックは石油製品なので、プラスチック汚染は、私たちが抱える気候危機と不可分に結びついている」と、カミンズは指摘する。「幸いなことに、イノベーションや代替素材の開発が盛んになっている。これらは、未来に希望が見える動きだ。さらに企業も、生産や包装の在り方を見直し、自然界から採掘したものではなく、再生可能なものにしようとしている」

「我々は、こうした解決策をさらに拡大すべく、努力を続けなければならない。一方で、私たちの海や気候を汚染する業界については、責任を追及する必要がある」と、カミンズは述べた。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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