石塚理華(以下、石塚):「公共とデザイン」は、デザインをバックグラウンドにもつ3人が2021年に設立したソーシャルイノベーション・スタジオです。
私たちは「自分たちの手で社会は変えられる」という実感を得にくい現代社会に疑問を抱いています。個人が感じる「ままならなさ」と社会課題は、実は密接につながっている。それならば、一人ひとりの好奇心や望ましさから生まれる「ライフプロジェクト」が育まれることによって、手触り感のある社会が実現されるのではないか。
私たちはそうした考えのもと、これからの社会が目指すべきオルタナティブな民主主義を「クリエイティブデモクラシー」と位置付け、「わたし」と異なる他者とのかかわりのなかで、個人の内発性に基づく「ライフプロジェクト」が生まれる「うつわ」づくり、うつわが連なり、住民や地域、行政、企業と連携しながら社会全体で営みが循環するような「環境(=エコシステム)」づくりに取り組んでいます。
例えば不妊治療や特別養子縁組など、いろいろなかたちで「産む」に関わる人たちと一緒に、産むことに関する“あたりまえ”がどこから来ているのかを考える「産まみ(む)めも」というプロジェクトや、渋谷区による住民参加型イノベーションラボの設立支援はその一部です。今回はそうした「うつわづくり」に、私たちとは異なる角度から取り組んでいる2社にお越しいただきました。
富樫重太(以下、富樫):エーゼログループは、「未来の里山を作る」を合言葉に、持続可能性の高い地域の社会経済システムの実現を目指されている集団です。地域の持続可能性を高めるために、ローカルベンチャーの育成事業などを通じて、社会の変化につながるエコシステム的なアプローチを展開している点に興味をもちました。
牧 大介(以下、牧):エーゼログループの事業領域は、ローカルベンチャー育成事業の「経済資本領域」、高齢者福祉や宿泊施設運営などの「社会関係資本領域」、養蜂や木材加工をはじめとする「自然資本領域」の3つにわたります。歴史や地理条件などが異なる複数の地域でさまざまな仮説検証を繰り返すことにより、人と自然が共生する社会経済モデルの解像度を高めていくことを目指し、現在岡山、滋賀、北海道、鹿児島の4拠点で事業を展開しています。
2009年の創業から約15年がたった今、グループ全体の売り上げは10億円ほどに成長しました。私たちが拠点を置いている地域ではローカルベンチャーが50社生まれ、納税額や課税所得平均などが向上しており、明らかに経済が上向いています。
「過疎地の経済は縮むしかない」というのは思い込み。小さなチャレンジの積み重ねによって自分たちの住む地域を良くしていけることが、住民の共通認識となりつつあります。