“悪の組織”がソーシャルイノベーションを生む
川地真史(以下、川地):ベンチャー企業の立ち上げは地域住民にとって大きな挑戦だったと思います。挑戦が生まれるために、どのような工夫を行いましたか。牧:「やりたいことをやってもいい」という新しい文化や常識を定着させるための取り組みには、非常に力を入れてきました。例えば、ローカルベンチャープログラムには当事者以外の住民にも参加してもらい、チャレンジする人を応援する楽しさを感じてもらいました。あえて異物感のあるものを投入することによって、自分たちの地域がどのように変わるのかを考えてもらうきっかけになったと思います。
もうひとつはメディア発信です。新しく生まれた取り組みはどんなにいい内容でも、放っておくと忘れ去られてしまうものですから、新しく生まれた取り組みが「未来の里山」に対してどのような価値があることなのかを記事編集の過程できちんと意味付けし、まるで地層を積み重ねるようにストック化してきました。
石塚:エーゼログループは今4拠点ですが、将来的には7拠点を目指していると伺いました。複数のローカル拠点をもつことで想定される効果やシナジーについて教えてください。
牧:私たちの取り組みは「100年」ぐらいはかけないと成果が出ないものだと思っています。ローカルベンチャーは「未来の里山」を実現するためのプロセスのひとつであり、この土壌の上でさまざまなチャレンジがこれからも生まれ続けていくことが大切だからです。
その時間軸を考えると、複数拠点があったほうが何かあったときに支え合えますよね。もし災害などでその地域に住めなくなったときのために、ほかに移動できる自由を確保しておきたい。そもそも7拠点ぐらいが、人間の脳で認識できる限界の拠点数です。お互いの顔が見える状態で長期的に成長していける関係性を保つためには、拡大しすぎないことも大切だと思います。
石塚:続いて、神奈川県藤沢市を拠点に活動するぐるんとびーは、介護保険事業を起点に、高齢者や子どもなど、地域のさまざまな人たちを巻き込みながらネットワーク化する活動をされています。自分がやってみたいことを「やる側」にもなるし「支える側」「支えられる側」にもなる。そのエコシステムの先で目指しているのはクリエイティブデモクラシーの世界なのではないかと思いました。
菅原健介(以下、菅原):ぐるんとびーは「地域を一つの大きな家族に」というスローガンのもと、介護事業とさまざまなNPO事業を通じてまちづくりに取り組んでいる会社です。地域の人々に居場所を提供するために、子どもが無料でスポーツを楽しめる「スポトレ」や、産後ママ向けヨガ教室の「ママトレ」を開催したり、ちょっとした困り事を解決できるように「まちかど御用聞き」や「まちかど法律相談」といった仕組みをつくったりしてきました。
会社設立のきっかけは、2011年の東日本大震災です。ボランティアとして復興に携わる中で、困ったときに助け合える関係性を普段から作っておくことの重要性を実感しました。そこで、藤沢市大庭の団地に自らも住みながら小規模多機能型の事務所を開き、団地の人たちがお互いに助け合える環境を築いてきました。
人は誰でも年を取るし、病気にもなります。どんな状態の人でもその人らしく生活し続けられるように、日常的に豊かにつながり合える環境をつくるのが僕らの役割です。